「よ。お美しい旅芸人のお嬢さん方。楽器の奏者もお入り用じゃない?」

そう、蜀の関所前で後ろから声をかけたときの陸遜と凌統の反応は傑作だった。
文字どおり飛び上がって驚いていた。

!?どうしてここに?」
「ずっと呉からだけど。気づかなかった?」
呂蒙に地図を書いてもらって、諸葛瑾に理由を話して、孫権様と張昭様に置き手紙して、あの日は早朝から結構ハードだったなー。
急いで追い掛けていって、後はただひたすら二人の後を見つからないようにくっついていって。
で、今、着替え終わった二人の後ろから声をかけたらこっちが思っている以上に驚いてくれた。

「何だよ、もしかしなくても全部ばれてんじゃねえか・・・。」
がっくりと凌統が項垂れた。
に知られているってことは他の六駿にも・・・」
「当然。」

陸遜もがっくりと項垂れた。
いや、苦楽を共にしてきた仲だもの、行動パターンぐらい読めるだろうと思うんだけど何か本当に落ち込んでるなあ。

「ほら、二人して黄昏れてないで。関所抜けるんでしょ。」
そう、ぐずぐずしていられない。
二人を急き立てて関所を通る待ち行列の後ろにささっと回りこむ。
そのまま荷車を押すフリをして上手く顔を隠して通り抜ける・・・よし、うまくいった、かな?

「作戦成功。」
「こんな衣装どこで。」
荷車を押しながら陸遜が凌統に問いかける。
うん。陸遜、それはいい質問だ。私もそれが気になってた。
「こんなこともあろうかと後宮から拝借してきたのさ。でもなんでだけ男のナリなんだよ。」
得意そうに笑ってるけど、後宮からかい!ってそれはともかく。

「えー?だって女性一人旅じゃ危険だし。ニ胡奏者って設定なんだから性別は関係ないし。」
ニ胡はこの世界に来てから初めてさわったけど、今じゃ何とかそれほど長くない曲だったら弾けるようになった。まさか、こんな時に役立つとは思わなかったけどね。
それに女装については適材適所っていうでしょ?二人とも私より綺麗なんだし私なんかよりずっと女装しやすいし。私は女装なんていやだし。
そう言うと。

「いや、女装ってお前もともと女じゃん。」
ぶつぶつ、凌統が言う。

も整ってる部類の顔立ちだし人目を惹くほうに入ると思うよ。別に卑下することもないと・・・」
「お世辞はいいから!」
・・・陸遜がお世辞なんて言える性格じゃないのは知ってるしその言葉は嬉しいんだけど。
衣装を着て化粧した凌統はそれはそれは綺麗な女の子にしか見えなかった。
陸遜も、綺麗な顔だちだし体型はゆったりした衣装で隠せるから顔だけみれば女の子に見える。
まったく、私のほうがよっぽど男に見えるよ。
衣装で隠れてるけど、二人ときたら肌だって脚だって綺麗だし妙な色気はあるし・・・ってこれは私の嫉妬だ。はあ。

「お前達!関所破りだな!」
うわ、バレたの?
あせって振り返るとそこには、別の旅人の一団がいた。
私達じゃなかったみたいでほっとしたけど・・・どうしよう、放っておけないよね・・・と二人を見ると二人とも同じように思っていたらしく、頷いた。
そこに、すっと影が射した。
後ろ姿しか見えないがかなり大柄な男だ。
あれ?見覚えがあるような。
次々、張り手で吹っ飛ばされる兵士達。
「関羽様!」
関羽!?確か、呉で一度会ったことがある。

「関羽っていや劉備の。」
「ああ。」
陸遜も凌統も気づいたみたいだ。
こちらの顔は・・・私はともかくこの二人は知られているよね。
ここで会ったことが面倒なことになるかもしれない。
「痛かろう。その痛み、忘れずニ度と民に刀振るうな。」
私達が出るまでもなく、旅人達は助かったみたいだ。
よかった。

「お前ら、そこで何をしている!」
が、こっちも危機に陥ってしまった。
まずい。この騒ぎがあちらの関羽に聞こえませんように・・・。
「そ、そのオレじゃなくてあたい達旅の一座のもんでして」
頑張れ、凌統!ちょっとオーバアクションな気もするけど、君の綺麗さなら誤魔化せる!多分。
焦る凌統の顔近くに、兵士が、ずいっと顔を寄せてきて、しげしげ見る。
正直、私達三人とも内心冷や汗たらたらだった。
「なかなか、かわいい顔してるじゃないか。ひとつオレが口をきいてやろう。」
すっかり鼻の下をのばした兵士が言う。
おお、やった!凌統で正解だったわ・・・私じゃ誤魔化されないもんね、きっと。
「で、お前は?」
はいっ!?いきなり話ふられて一瞬びびったけど。
「私は同じく旅の一座の楽器担当でして。」
さりげなく、背負った包みからニ胡を取り出してみせる。
声は低め、低めで、と。
「なんだ、男か。」
「はい。この二人の親戚筋の者です。」
「まあいい。お前も来い。」
あっさり通っちゃった・・・何だか複雑だ。


「おい、娘達、何ぞ見せてみろ。」
そのまま、焚き火のそばまで私達は連れて来られた。
そして、兵士たちの話の相手をしていたのだけれど、兵士たちの一人が急にそんなことを言い出した。
まあ、旅芸人って言っちゃったから当然といえば当然・・・でも私だったらニ胡弾いて誤魔化せるけどさ、凌統も陸遜も何か芸できたっけ?・・・どうしよう、と思った矢先。
凌統が取り出したのは炎烈鎧の龍星。
そのまま、ぶんっと飛ばして崖上の木の枝をばっさり切って、戻ってきた龍星をあざやかにキャッチみせる。
「いいぞー!」
何だか大ウケしてるけど。
いいのか?だって、あきらかにこんなん出来るのって旅芸人じゃなくて武人じゃないのか?

「お代はちゃーんと頂きますからね。」
凌統、何だかノリノリだ。・・・こういう緊急時の順応性高いな、この子。
逆に、かたくなっているのが陸遜。
「おい、凌統・・・じゃなくてそのへんに。」
その心配も尤もだ。
私も、ずっと関羽が付近で住民のために兵士たちと何やら打ち合わせしたり作業したりしているのは横目でちらちら気にしていた。
陸遜は一度、手合わせをしたわけだから、面は割れているし。
焚き火の周りの賑やかさに気づいたのか、関羽がこちらにやってくるのが見えた。
私はさりげなく場所移動していたけど、運悪く陸遜がつかまった。

「その方。名をなんと申す?」
「私は・・・」
やっぱり、勘付かれた・・・よね。
「旅芸人ではないな。まして女などととんでもない。」
紗がかかった笠を飛ばされ、陸遜の顔を目にした関羽の顔に驚愕が走った。
「そなたは・・・」

それから。
一悶着起きるかと思っていたが、陸遜と関羽は立ち話をしている。
何を話しているんだろう?まさか、馬鹿丁寧に”玉璽を探しにきました”なんて言ってない・・・よね。
陸遜って感情がだだ漏れするくらい、正直者だからなあ・・・。
心配だったけど陸遜が、心配ない、というようにこちらを見て頷くので私は再び凌統と一緒に焚き火の側に戻った。
おい、何ぞ弾いてみせろと兵士達が言うので、では・・・と思ったがこういう場で弾けるのといえば、周瑜様がよく笛で奏でていたので覚えてしまった曲と、あとはニ、三曲・・・。
「では、”茉莉花”を・・・」
「あ、オレじゃなくてあたい、剣舞やりまーす。」
本当に、土壇場に強い子だよ、凌統。
でも助かった。

で、しばらくは何とか和やかにしていたのだけれど、兵士たちがだんだんと酒に酔ってきた。
凌統、モテモテです。
”助けろ、〜!”って目で訴えてこられても・・・私、男ってことになってるから。頑張れ!と同じく視線で答えると”薄情モノ”と言わんばかりに睨まれた。
だって、酒の席にセクハラは付き物だよ。ああ、男ってことにしといてよかった。
頑張れ、若者。
こうして、セクハラに対してどう対応するか、社会人としてはそこがスタートでどんどん学んでいくんだよ。
でもさすがに、ちょっと度を超えている気がするかも。
凌統に絡んでいた兵士が、夜のお誘いをかけ始めたのだ。(まさか、男だってのはバレてないよね?)
さすがにそれは・・・と思ったら凌統が立ち上がり、兵士がそのはずみで転んで顔を木箱の角でひどくぶつけた。
「この・・・!」
逆上した兵士が槍で凌統に突きかかる。
うわ、男として最低な奴だな、この兵士。
酔ってるし、凌統も龍星を持っていて鮮やかな身のこなしで躱しているので大丈夫だろう、と思っていたら。
ビリリっ!
兵士の槍が引っ掛かって衣装が破けた。
「おお〜!」
どよめきがあがるが。
「ありゃ、男じゃねえのか?」
「しまった・・・」
でも、化粧してるし私には女の子に見えるのですが・・・という突っ込みはおいといて。
凌統に殺到する兵士達。
咄嗟にそこから素早い身のこなしで飛び出した凌統が龍星を使って牽制する。
だがしかし。

「うわっ!あぶない!ちょっと!凌統!私も危ない!」
頭すれすれを飛び回る龍星に私まで危険が。
「貴様も仲間か!」
さりげなく、焚き火の側から退散しようとしてたのに・・・。
まだ残ってた兵士達が私にも殺到してきた。
しかも武器つきで!

「ああー、もう何だか最後はこうなるような気がしてたわー!」
ニ胡はそのあたりに置いて、隠し持っていた炎烈鎧の刀を抜いて私も兵士たちと斬り結ぶ。

「仕方ねえだろ、。取りあえず切り抜けるぞ!」
「了解!」
刀を振るうのにも大分慣れた。
だてに、太史慈将軍に鍛えられているわけじゃない。
当たり前だけど、普段手合わせお願いしている六駿に比べたら戦闘力なんて雲泥の差。
ただ、殺さないように手加減ていうのと数が多いのが手間取る。
凌統みたいに牽制できる武器だったら楽なのに。
その間にも龍星は頭上を飛び回り。
はっとした時にはもう遅かった。

陸遜と話し込んでいた関羽の鎧にはじかれた龍星は、関羽の頬に、一筋の傷をつくった。
その瞬間。
関羽の身体に、紫色の紋様が走り、禍々しい気が溢れ出した。
何、これ?
前に見た煌星の力と似ているけど。
いや、違う!玉璽で煌星をした人間とは明らかに違う、気だ。

「貴様が劉備様に仇なす者か。さては玉璽を奪いに来たな!」
轟くような声で関羽が問いつめる。
「ではやはり玉璽は蜀に!」
「渡さぬ。あれは劉備様のもの!」
やっぱり・・・陸遜の悪い予感は当たってた。
趙雲が呉に来た時点で疑いの余地はないわけだけど、陸遜にとっては一番信じたくないことだったに違いない。

すっかり逆上した関羽が陸遜に斬り掛かった。
瞬間。
陸遜が肌身離さず身につけている勾玉が、光を放った。
それに煽られるようにますます、関羽から放たれる禍々しい気。

どういうこと?
以前、陸遜があの勾玉で玉璽の気配を探ることができる、って言っていたのは聞いていたけど。
関羽の力は疑似玉璽によるもの。
力が連動している?
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
すっかり、関羽は暴走してしまっている。
あれが、さっきの旅人たちを助けた、人情と理知を備えた人間と同じ人物だなんて思えない。

「なぜ、なぜです!関羽様!」
ここまで来ても、陸遜は避けるだけで戦おうとしない。
必死に、関羽の刃を避けている。
このままでは・・・。

「兄貴!覚悟を決めろ!戦え!呉の仲間のために!」
兵士たちの攻撃を龍星を使って防ぎながら戦い、凌統が叫んだ。
陸遜の目がはっと見開かれる。
「今の兄貴に必要なのは力でも正義でもねえ。覚悟だ!」

よく言ってくれた、凌統。そうだよ、私達はちゃんと帰るって約束してここに来た。
紅閃を構え、それでも陸遜が迷っているのが見えた。

「凌統の言う通りだよ!戦って!陸遜!ここであなたが倒れたら、ここまで来た意味がなくなる!孔明様に会うんでしょう?そして、皆のところに戻るんでしょう!どっちも果たせなくなる!だから戦って!」

ブーメラン型の龍星では、直接複数の兵士達と渡り合うのは不利だ。
凌統の背後に回ろうとした兵士を薙ぎはらい、蹴り飛ばしながら私も怒鳴った。
・・・」

「死ね。劉備様劉備様劉備様!」
そうしている間にも、関羽は劉備の名を連呼しながら陸遜に襲い掛かっていく。
なんて、哀しい姿なんだろう。これが、玉璽の力か。それを使った人間の末路なのか。
そう思うとやりきれなくなった。

「我が師よ・・・これも貴方の望みなのですか・・」
そう、哀しげに陸遜は言って煌星の力を解き放ち、関羽と戦い始めた。
煌星者二人の戦いに圧倒されて、凌統も私も、兵士たちも何時の間にか武器を下ろしていた。
だけど。
びしっという音がして。
紅閃にひびが入るのが見えた。
「関羽様!」

「兄貴!」
凌統が走り出し、陸遜に駆け寄る。
その姿を目にした関羽が矛を引いた。
「紋様が・・・」
潮が引くように、関羽の身体をおおっていた、紫色の紋様もまた引いていった。
何故、引いたのだろう?凌統に誰かを重ねて・・・?

すっと関羽の指がとある山頂を指し示した。
「孔明はあの山頂に庵にいる。」
「どうして、私に・・・」
戸惑う陸遜。
そう、どうして急に・・・。
「去れ、陸遜!去らねばお前を殺してしまう。」
それだけ、言って関羽は、後ろを向いてしまった。
それでもわかる。今、関羽は必死に自分の中から沸き上がる破壊と殺戮衝動を耐えているのだ。
ここは、離れるしかない。

「行くぜ、兄貴。。」
凌統が陸遜に肩を貸し、歩き始めた。
私も、急いでその付近の自分達の荷物を拾い集めて後を追った。


日の暮れかけた山道を歩きながら私達は無言だった。
陸遜の心中を思うと、何も言えなかった。
陸遜の心の中は、きっと師への想いと呉の国との間で二つに分かれているんだろう。

「凌統、。やはり我が師は、孔明様は・・・僕はどうしたらいいんだろうな。」
「泣きな。真ん中にいるからつらいんだ。」
凌統の言葉に、陸遜の頬を涙が伝った。
私も、その言葉が胸にしみた。
人を想うがゆえのせつなさ、絶望、自分を待っているもの、自分が守りたいもの。
全部が、混じりあってそれでも信じたいからつらい。
人を愛するということは、力になるけれど時としてそれは苦しみにもなる。
想う人にそのままついて殉ずることの出来る人間は幸せだ。でも、時としてそれが出来ないことを知っているからつらい。
不意に目の奥が熱くなって、空を見上げた。

山頂の庵に到着した頃には、すっかり夜も遅くなっていた。

「兄貴、本当に一人で行けるのか?一人で行って戻って来れるのか?」
凌統の心配はもっともだ。
少し離れたところにある庵は、明かりもなく静まり返っていた。
そして、何より。
陸遜がどう決断するのか、それが心配なのだろう。

「戻ってくるさ。お前たちがいるからな。」
そう凌統に答え、ちらりとこちらを見て陸遜は微笑んだ。
「うん。いってらっしゃい。」
「兄貴、待ってるぜ。」
そして、陸遜は歩いていった。
孔明が待つであろう、庵へ。

「ごめん、凌統、ここからは別行動。後で合流する。」
「何でだよ!?」

陸遜の姿が庵に消えるのを待って、私も凌統に切り出した。
ごめんね、どうしても確かめておきたいことがあるから。
とりあえず、落ち着いて、と凌統の肩に手を置いて、少し下にある目線に私のそれを合わせた。

「ちょっと、様子見。陸遜には怒られるから内緒にしといて。それと・・・私も孔明殿と少しだけお話したいことがあるから。」
ごめんね、と再度謝ると。
「戻ってくるよな?」
ぷい、と少し顔を赤くしながら顔を背けて。
でも憮然とした顔で凌統が言った。
心配ばっかり、かけてるね。
ずっと年下の子なのに。本当はまだ、守ってもらうべき年齢なのに。
そう思ったら。
不意に凌統が弟のように、ううん、小さな子供みたいに思えて抱きしめたくなってしまった。

「勿論だよ。」
自分より少しだけ背の低い凌統を、ぎゅ、と抱きしめる。
「うわ!ちょっと!そういう慎みのねぇことはよせって・・・」
「何だか、凌統またちょっとだけ大きくなったみたいだ。」
顔なんて私よりずっと可愛くて、髪なんてさらさらで。
でも触れた身体は、薄くてもしっかり筋肉がついている、成長過程の少年そのものだった。
確実に、凌統の背は伸びている。心はもっともっと速い速度で成長し続けている。
最近頼もしく思えることがあるから。だから後のことを託しても大丈夫だと思えるから。
「・・・いいから。ちゃんと怪我とかしねぇで帰って来いよ。」
「うん。」
最初はじたばたと顔を真っ赤にして暴れていたけど。
ぽん、ぽん、と凌統の手が私の背中をなだめるように軽くたたく。
「何かさ、こうすっとってやっぱり女なんだって思うよ。」
「え?何それ?もしかして私太った?!」
油断するとすぐ、お肉がつく体質が憎い・・・ここしばらく歩くだけで鍛練してなかったからなあ・・・背中についた肉って落ちにくいのよね。

「じゃなくて。・・・もう母上のことなんてほとんど覚えてねぇんだけどさ。今のみたいな匂いがしたな、って。・・・ってなんで泣くんだよ。」
「ごめん。って泣いてないもん。」
そう言いつつ、ぐずっと鼻をすすった。
凌統が幼い頃に亡くなったという母親のことを思い出させてしまったのだと思うと胸が痛んだ。
この子はこんなに小さいのに・・・。これ言ったら絶対怒るから言わないけど。
私が凌統ぐらいの年には、それなりに悩みはあったけど毎日学校に行って勉強して部活して。
勿論、こんな戦争なんてなくて気楽に友達と笑いあっていた。

「そんなんだから太史慈に”泣き虫”って言われちまうんだぞ。」
「失礼な!私が皆の前で泣いたのって二回だけだから!泣き虫じゃない!」
涙を引っ込めて、がばっと凌統から離れて抗議すると。
「二回も大泣きしてんの見られりゃ十分だろ。太史慈は気に入った奴には呂蒙みたいに”へなちょこ”とか呼び名つけっからな。ほら、さっさと行けよ。」
「わかったよ。じゃ、陸遜のこと、頼んだよ。・・・多分、打ちのめされて戻ってくると思うから。」
「ああ。気をつけてな。」
そうして、私はその場を後にした。

本当に、戻ってきたい。
そして、呉に帰って皆にただいま、って言って。
ああ、そうしたら凌統や呂蒙のつくったご飯も食べたいな。
その時は、本当にただ、そう、思っていた。
行く先に何が待っているかなんて全然知らなかったから。
私の願いなんて、そんな、ささやかなものだったのに。










Music by 遠 来 未 来 〜えんらいみらい〜曲名「群雄天星」