『はじまり』


まったく、どうしてこの人はこんなに謙虚なんだろう。
一番最初に惚れたのはその男らしさだったはずなのに。
死ぬ気のときの豪快さとはうってかわった雰囲気に。
むずむずと、じれったいようなくすぐったいような、不可解な気持ちが込み上げてくる。
ふいに、びょおっと風が吹いて、細い首をすくめてぶるり、と震えたのを見た瞬間。
身体は勝手に動いていた。
歩道橋の。
階段をのぼりきった一番上でうつむいたその立ち姿まで。
ラバーソールの踵を打ち付けながら一気に駆けのぼる。
途中、あんまり長い階段にちょっとよろめいたけど。
自分より、小柄で細いその身体を、上からばふっと覆うようにして抱き締める。
「ご、獄寺くん!?」
「その、まんまでいいんです」
バラバラと、2人で買い出たパーティ用のあれやこれやが足下に落っこちたけどかまやしない。
胸のなかのくすぐったい感覚に気づいた、せめて、今、この時間だけは。