『きょうかいせん(後編)』


「いいよ。」
「え?」
きゅうう、と首筋に回した手に力を込めると獄寺くんが、びくり、と緊張した。
もしかして。

「もしかしてオレが、やめよう、って言うと思った?」
答えないのは図星だったからだね。
まだここまできて自制しようとしてるのに少しだけムッとする。

「獄寺くんは、オレが欲しくないの?」
オレは、獄寺くんのことが好きだし全部欲しい。
そりゃちょっとは怖いけど、全部知りたいしこうしてそばにいたい。
「・・・欲しい、ですよ。でも、一回でも10代目を抱いたりしたら、もう後戻りできなくなります。」
「いい、って言ってるだろ。オレがきみを欲しいんだから。」

意を決したように、抱き上げられて大股でベッドまで三歩。
ふわり、とベッドの上に下ろされた。
本当は、かなり心臓がバクバクいってる。
カーテンを閉めた獄寺くんがまたベッドの上に戻ってくる。
少しの隙間からの光と、あとは時計のグリーンに光る文字盤だけで、目が慣れるのにちょっと時間がかかった。

「本当に、いいんですね?もう、イヤだって言われても止まりませんよ?」
パーカを首からぬかれて。
ぷちぷちと、わざとゆっくりボタンを外しながら聞いてくる。
「脱がせます、よ?」
わざわざ断ってからオレのチノパンも脱がせた。

獄寺くんも、シャツを脱ぎ捨てる。
ドッグタグが、ひやり、と肌に触れたのに首をすくめると。
あわててペンダントも指輪も外して、それからゆっくりと覆いかぶさってきた。

「ふ、ぅぅ・・・」
こわれものを扱うように、そっと、両手で身体のラインをなぞっていく。
そのまま、両手は全身をなでていく。
時折、びくっとなる箇所は念入りに。
気持ちいい。
あったかい。
あばら骨のあたりから、乳首までゆっくりと舌がはい上がって、そこをなめて吸い上げる。
「んんっ」
しばらくそこを舌で押しつぶすようにしてなぞった後。
膝を割って、身体を重ねられる。
不安そうな顔をしてしまったのか、獄寺くんがなだめるみたいなキスをくれた。

「あっ!」
すっかり、たちあがってしまった中心をぬるぬるとさすられて高い声があがる。
自分でするよりも、何倍も刺激が強すぎて。
きっと、獄寺くんの手、だから。
あっというまに追いつめられた。
「あっ・・・い、いっちゃうよ!」
オレのあげた声に応えるように、手を速めて。
獄寺くんの手の中でイってしまった。

「獄寺くん、も」
ちょっとだるい身体を起こして、まだ、ジーンズをはいたままだった獄寺くんのボタンを外そうとする。
「えっ、ちょっ、10代目!?」
ジーンズの上からでも、さっきからオレの脚に押し付けられている熱さ。
驚いた声を上げたけど、獄寺くんはオレの好きなようにさせてくれた。
ジッパーを下げると、すっかり堅く熱くなったそれが飛び出してきた。
こわごわと両手で包む。
オレとは全然違う形、だった。
熱くて堅くて。

「無理、しなくていいですよ」
あごから頬へ、唇でたどって、無理なんかしてない、って言おうとしたオレの言葉も吸い取って、またベッドの上に寝かされてしまう。

獄寺くんが、ぴちゃり、と指を湿らせて。
「ちょっと、我慢してください。」
身体の奥に中指を、挿しこまれた。
「・・・う、・・・っ」
ここ、で獄寺くんを受け入れるんだ。
痛みの混ざった、なんともいえない感覚。

「あ」
何だか、そこに触られると身体がびくっとなる。
しばらく、そこを指でさすってから、ゆっくり指を増やされて。
「あぁ、・・・ん、んん」
いやらしい音が部屋にあふれる。
獄寺くんはオレの脚を抱えなおして、まだ迷いのある目で見つめてくる。
きて、いいよ。
オレが目で合図したのをくみとって、ゆっくりと、入ってくる。

「・・・うっ、く・・・はぁ・・」
痛い。熱い。
最初に感じたのはそれだけだった。
「やめますか?辛そうですよ?」
「・・・や、めないで。おねがい・・・」
獄寺くんを全部、知りたいから。
最後まで入ったそれを、獄寺くんはしばらく動かさないでいてくれて。
ゆっくりと揺らされはじめた頃には痛みはほとんど飛んでいた。


目を伏せて一心に、打ち込んでくる。
ぼやけた視界に、銀色がかった髪の毛が、汗でたばになってゆれるのが見える。
かわいい、きれい。
切れ切れに思う。
「10代目、10代目・・・」
はっ、はっ、と短く荒い息をはきながら。
突き上げられる。
きみの呼ぶ声がオレをつなぎとめる。
「ん、んうっ!・・・あ、あ、・・・っ」
獄寺くんの名前を呼びたいのに、口をついてでるのは、すすり泣くのに似た呼吸だけ。
すがるものが欲しくて、獄寺くんの肩口におでこを擦り付けながら。
もう何十分、こうして繋がって揺られているんだろう。
時間の感覚は既になくて、それでも背中に感じる綿毛布のやわらかな肌ざわり。
さっき中の、身体がびくっとなるところを奥まで入ったそれに摩られて、飛び上がりそうになる腰。
触られてもいないのに、それだけでもう1度イってしまった。
一番奥までさし込まれた瞬間、獄寺くんが、体全体を震わせた。
もう、そこの感覚はなかったけど、あ、出したんだ、とぼんやりと脱力しながら思った。

「愛してます」
汗ではりついた髪の毛をどけてくれながら、低く獄寺くんがささやいて。
そっと、オレの中から出て行く。
2人の間にまた、空気が入り込んで何だかそれがさみしい。

ティッシュで、そっとオレの出したあれでよごれたお腹をぬぐってくれて。
自分の、そこもぬぐうと、また、ぎゅっと抱きしめてくれる。
そのまま、多分、一時間くらいそうしていた。

したことで、満ち足りて、それからさみしい思いをするなんて知らなかった。
きみがいなければ、知らなかった。
もうきみがいない日常なんて考えられない。

このまま、眠ってしまいたい。
そう思っていたんだけど。

きゅるるるる・・・ぐう・・・。

そう考えても身体は正直で、かなり大きな音でお腹が鳴ってしまった。

「・・・」
「・・・」
「すいません、そういやもう、結構遅いのに昼から何も食ってませんでしたね」
「ご、ごめん・・・。」

ムードも何もなくて。
謝ったら。

「ちょっと待っててください。何か、すぐ作ります!」
「え?いいよ!そんなの!」
「ホントすぐ出来ますから。そのまま寝て待っててください」

そのまま、って。
とは言っても、腰のあたりがずきずきするし、ちょっとしばらくは動けそうもなかった。
逆に獄寺くんは、ささっと服を身につけて、キッチンのほうへ向かう。
もう、開き直っちゃえ、とまたベッドに寝転んでいると。
何か、ゆでたり炒めてる音が聞こえてきて。
それがすごく平和で幸せで。
そのまま、すこしうとうとしかけた頃。

「10代目!できました!起きられますか?」

ペペロンチーノとウ−ロン茶のコップを2つずつトレイにのっけた獄寺くんが戻ってきた。
そのまま、オレを助け起こして枕を腰の下にあてて、膝の上にトレイを載せてくれる。
「オレはこっちで食べますから。」
自分の分のお皿を別にとって床に座って。
オリーブオイルのいい匂い。
「いただきます。」
フォークをとって食べはじめると。
なぜか涙がとまらなくなってきた。

「すんません!トウガラシがきつかったっすか!?」

そうじゃない、そうじゃないんだ。
すごく、おいしいんだ。すごく、幸せなんだ。
なのに、泣いて、ごめんね。
獄寺くんは、おろおろしている。

そう。
幸せなのは、今きみがここにいてくれること。
そして、不安なのは、きみがやさしすぎて、幸せなこと。
きみがいなければ、何も知らなかった。