『上々』




長閑な昼下がりの甲板の上を、様々な足音が行き交う。
直に頭をつけた板のその上。


鳶職を思わせるようなすり足。
テーブルの間を滑るように歩くうちに身についたのだろうそれを、ぴたりと止めて。
おやおやとばかりに皮肉たっぷりに囁く。
「まーったく、三年寝太郎だね、こりゃ。ま、今日だけは見逃してやるよ」


どたどたどた、こつこつ、と複数の足音が横を駆け抜けようとして。
急に忍ぶような足取りになる。
火薬のような、薬品のような入り混じった匂いがゆっくりと足元から頭の方向へ抜けていく。
「・・・しーっ。静かにな」
「・・・そうだな。しーっ。今日は・・・だからな。」


サンダルを履いた足で、猫のような歩き方をしたそれが頭頂付近で止まる。
次いで、しげしげと覗き込んでいるような気配。
微かな匂いは甘ったるい柑橘系。
「あらあら、優雅なご身分だこと。ま、今日だけね。」


足元付近で。
まったく音をたてず、立ち止まったときにそれと知らせるため、こつり、と。
音をたてたヒール。くすくすと、空気を微かに揺らす笑み。
「おつかれみたいね。もうしばらくおやすみなさい。」


間。
瞼の裏側にあった陽の白さが左から右へ移動して消えかけた頃。
ぱちん、と目をあければ、そいつがいた。

頭のそばにしゃがみこんだそいつは、夜のようなぴかぴか光った黒い瞳でじっと見下ろしている。
「いつからいた?」
「今きたとこだ。ゆっくり寝れたか?」
「ああ。寝過ぎた。」
起こしゃいいのに、と上体だけ起こして首を廻すと付け根付近が、かきこき鳴る。
それを摩るようにしながら言うと。
そりゃだめだ、と。
なぜか嬉しそうに、そいつはしし、と笑った。

だって。
今日はトクベツだから。
今日は全部免除でゆっくり寝かせてやろうと思って。
誕生日だから、それが一番だろうってそう皆で決めたんだ。

「なるほどな。一日だけの静寂を、ってわけか。」
「気に入ったか?」
で、サンジが、そろそろメシだから呼んでこいって。
今日はゴチソウらしいぞ?早くこい!
キッチンのほうから、風にのってくる匂いにそいつは、うずうずと体を揺らす。

起こさないでいてくれる、仲間の心遣い。
そいつはひどく、この船のクルー達らしくて、ありがたかった。

よっ、と少し反動をつけて立上がると、言葉の割に急かす風でもなく既に立って待っていたそいつと並んで歩き出す。

「肉もたっぷりあるぞー。食いたいと思ってサンジに頼んどいた。」
「そりゃ、お前が食いたいんだろ。」
「まあ、ついでだ!」
「どっちが、なんのついでだよ。」
軽く、麦藁帽子の頭をこづくふりをすれば、そいつはするりと避けて、笑いながら言った。

”お誕生日オメデトウ!”
少し低い位置で笑う、笑顔のそいつのように。
それは、特別な日。

見上げれば、あかね空に輝く一番星。

そして、船は、今日もゆく。
そんな、何気ない日の中のほんの少しだけ特別な日。
今日も上々だ。

----HAPPY BIRTHDAY!!! Zorro!!----



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実はゾロ誕に書きかけてそのままになってたSSです(汗)。
一日だけの静寂のプレゼント、クルーたちの足音、なんてのを書きたかった記憶があります・・・。
ひさしぶりなんてもう、いろいろ忘れてますわ・・・すいません。
でも、オールキャラなんだけどゾロル。(笑)




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