ムーンフラワー





その花は、夕暮れの雨上がりの砂漠に一時だけ咲くという幻の花。
夕暮れに咲いて、月が傾くまでには消えてしまう。
けれども、その花の根は、はるかはるか地中深く潜り水源に根ざし。
だから、その花が咲く限りこの街は滅びない。
希望の花、”ムーンフラワー”。






ユバの街。
軒先で、強い陽射しと砂埃をさけるようにして、老女が孫らしい幼い子供を膝にのせてあやしている。
のどがかわいたよ、とぐずる子供に、それじゃ、とっておきのいいお話をしてあげようか、と老女は砂漠に咲く伝説の花の話を始める。
ぐずっていたことも忘れたように、子供は目をまんまるにして、その話に聞き入る。

「おばあちゃんは、”ムーンフラワー”、見たことあるの?」
話が終わると子供は興味津々といった目を輝かせてたずねる。
「そうね、一度だけ・・・もう22年前にもなるけど・・・。」

なつかしそうに微笑んだ老女は、ふと顔をあげた。
その、皺深い顔に、一瞬、小さな水滴が落ちてきたように感じたのだ。
だが、空には雲ひとつなく。
かわりに、はるかはるか、東の空の方向には、申し訳程度にわずかな雨雲があってそこから湿った風が吹いてきた。
埃のせいで赤くなった目を眇めてそちらを見る。

「おばあちゃん?」
「きっと、咲いてるんじゃないかしらねえ?今、東のほうに、にわか雨が降ったみたい・・・きっとあのあたりなら・・。」
子供の怪訝そうな声に我に返った老女はそう答え。
「咲いてるの?見たいなあ。」
今度は膝からすべりおりて、ちょこん、と顎を乗せて、わくわくした表情で見上げてくる孫の頭を、咲いてるといいねえ、と撫でてやった。
今となってはおとぎ話に近いものがあるが、それでもその話はこの街の人々の心に夢を与えつづけてきてくれた。
親から子へ、そして孫の世代へと。

「なあなあ!さっきの話、ほんとなのか!?」
静寂をやぶって。
いきなり、声と共に視界に飛び込んできた少年に老婆は胆をつぶした。

その少年は、まるで風にでも運ばれてきたかのように唐突に現れた。
この国の民族衣装であるゆったりとして袖の広い上着を纏い、頭にかぶった麦藁帽子は幅の広い布で固定している。
服もその伸び伸びした全身も、砂埃で薄汚れてはいたが、そのなかで黒い瞳をがきらきら光っていた。
いい話を聞いたぞ!とうれしそうな様子が身体全体から発せられていて。
少なくとも、この街では見かけたことのない印象的な少年だった。

「ま、まあ、旅のお方?」
ようやく驚きから立ち直った老婆が問いかける。
「おお!ルフィっていうんだ!さっき、この街に着いたばかりで、いまタンケン中だ。」
しししし、とルフィと名乗った少年は屈託なく笑った。

「コンニチハ」
「おお!こんにちは!」
子供は祖母と同様やはり一瞬、驚いていたが、ルフィと目があって挨拶されると人懐こくにこにこと笑った。

「まあ、こんな砂漠の中を大変でしたね。ようこそ、ユバへ。・・・何もないですが、水を少々、差し上げましょう。」
たとえ、水が枯れかけていたとしても、この街の旅人をもてなす心までは枯れてはいない。
老女は、よたよたと立ち上がり、壁際に置かれた大きな水瓶のほうへと歩いていった。
そして、水瓶の蓋を開けると、立てかけてあった柄杓で水を掬う。
・・・もう、水の蓄えは殆どないらしく、わずかに底のほうで、ちゃぷん、と生ぬるい音がするのみ。
それでも柄杓からコップに水を移し、ルフィに差し出す。

「サンキュー!」
コップを受け取り、ルフィは礼を言った。
ありがたそうに両手でコップを包み込み、ここにくるまで一日中歩き通してからからの喉を潤そうとした。

と、その時、ルフィは視線に気がついた。
ルフィがコップを唇に運ぶ、その動きを追って、子供の目も動く。
コップを傾けようとすると、子供の目と口が同時に開いた。
それにルフィは気づき、次いで子供の渇いた唇にカサカサとした皮がむけているのを見た。
そして、決心したように、ん!と一人頷くと、子供の胸元に水の入ったコップを押し付けた。

「これ、やる。」
「え?でも・・・」
コップを受け取り、子供は驚いた表情でルフィを見上げる。
「おれは、強いからだいじょうぶ!!それにさっき、いい話を聞かせてくれたし!待ってるやつがいるから、もう戻らねえと。」
じゃあな、と笑顔でルフィは手を振って駆け出し、あっという間に見えなくなった。
ありがとなー!と響く声だけ残して走り去った少年に暫し2人は呆然としていたが。
「・・なんだか、不思議な感じのする男の子だったねえ。」
ルフィと名乗った少年の走り去った方向を見ながら老女は呟いた。
子供は、渡されたコップの水を見て、それからさっき見たルフィと名乗る少年の笑顔を思い出した。
そして初めて、喉の渇きや淋しさ以外の何かで胸がいっぱいになるのを感じた。

**********

「ゾロ〜!!」

次第に近く大きくなってくる声に、ゾロは顔を上げた。
ほどなくして、ゾロが寄りかかっていた、宿屋の部屋の扉まで、ルフィが息せききって駆けてくる。
「ゾロ、花を見に行こう!」
「はあ?・・おい!」
ゾロが今の言葉を理解できないうちに、ルフィは、バターン!と勢いよく扉を開けていた。
何事かと、部屋にいた仲間達がルフィを見る。
昼間の熱射にやられて倒れてしまい、今は寝台に寝ているウソップ、それを看ているチョッパー、思い思いの場所に腰を下ろした、ナミとビビとサンジ。
休息中だった最中にいきなり船長が飛び込んできたことで、何事かと一様にみな驚いた。

「何かあったの?ルフィ?」
寝台に腰掛けて衣服の砂を払っていたナミが、少し緊張した表情で問う。

「おお!いいこと聞いたんだ!この街の近くにすっごくきれいな花が咲いてるかもしれなくって、それが東側で、時間がねえんだ!」
どうやら、事件ではないらしいと知って皆、胸を撫で下ろした。
安心はしたが、相変わらずなルフィの説明口調に疲れがどっと襲ってきた。
辛抱強く表情も変えずにルフィを見守っているのはゾロくらいなものだった。
それでも、脱力しつつサンジが、はあ?と言ったように聞き直す。
「それじゃ、わからねえからもっとちゃんとわかるように説明しろ!」
「だから、みんなで探しに行こう!」
「おい!おれの言葉きいてんのか!?」
ちょっと声を荒げてみても、ルフィは、ん?とかえって何を疑問に思うのだと言わんばかりで。
行こう、行こうと繰り返す。
助け船を出したのはビビだった。
少し、首を傾げるように考えていたが。
「花ってもしかして・・ああ、”ムーンフラワー”のことかしら?」
「そう、そんな名前だった!その花が咲く街は絶対に滅んだりしないんだってさっき、聞いた!」

「確かに、この街の近くに咲くとは聞いていたけど、でもどうして?」
問い返さなくても、良いことを聞いたといわんばかりに嬉しそうなルフィの様子を見れば、理由なんて察せられたのだが。
「その花見たら、きっと街の人たちもビビも元気になる!」

だから探しに行く、どーん、と宣言した、ルフィの様子に寝ているウソップ以外は、皆納得した。
きっと一人でも探しに行くつもりなのだろう。
(言い出したら、聞かないんだから・・・)
「行くんだったら、あんたたち2人で行きなさい。」
そう言ったのはナミだった。

あんたたち・・・ナミの細くてすらっとした指が指したのは、もちろん船長と、その後ろに立つ剣豪。

「おい!おれだけか?」
いきなり指名された剣豪が意外そうに言う。
それに対して、一体こいつは何を言っているのかといった調子で、サンジは大げさなゼスチャーつきで答える。
(2人きりになるのがうれしいくせに・・・バレてないとでも思ってんのかねえ。)
という心の声は出さずにもっともらしく。
「今は、体力を温存しとく時じゃねえのか?行くんなら体力ありあまってるお前ら2人で行ってこい。」
「ちっ・・体力なしが」
ぼそっと呟いたゾロの声にサンジが耳ざとく反応する。
「何か言ったか!?体力バカ!?」
あわや、剣豪とコックが一戦交えそうな雰囲気になったのも慣れたものでナミはさらりと止める。

「はいはい、ケンカしないの。私もビビもチョッパーもこの暑さで消耗してるし、ウソップは倒れてる。こんな状況で何かあったら困るからサンジくんは、騎士役。
・・・ここまで言えばおわかり?」
筋道立てて理路整然と言われれば、何か引っかかるものを感じたとしても、2人で出かけるのももっともに聞こえるから不思議だ。

「何だよ〜!早く行こう!!」
その間にも、ルフィはゾロの袖をつんつん引っ張ってせきたてる。
その様子はまるで、父親にでもおねだりする子供を連想させて、あやうくそこにいた全員吹き出しかけた。
それに気づいてゾロがじろり、と睨むと皆、そ知らぬ顔で。
サンジは無言で、行けというように、目で合図して顎をしゃくる。
ビビもチョッパーもナミも「いってらっしゃい」とにこやかに送り出そうとし。
・・・結局、2人であるかもわからない花を探しに行くことになった。

「ゾロ〜!早く行こう!」
(まあ、悪くはないけどよ。)
ゾロは内心でそう思った。
散歩でもすれば、気が紛れるだろう。
本当は体力を温存するためにも寝たほうがいいのだろうが。
自分を見つめてくるルフィのその目はどこか、道端で必死に見上げてくる子猫を連想させた。
もちろん、それを無碍にできるなんてことはできるはずもなく。
そして、本当にひさしぶりで2人きりになれる。
実は、船長とは想いは伝え合って、何度かそういうこともした。
が、ゴーイング・メリー号では人が多くてなかなかそういった甘い状況に持ち込めない剣豪にとってはこれは嬉しい状況ではあった。
(まあ、まさかルフィがそこまで計算できるとは思えねえけどな。)

「よし、行くか。」
重い腰を上げて、刀を定位置に差し、ゾロはすれ違い様、ぽんとルフィの肩に手を置いた。
「おお!しゅっぱ〜つ!!」

「花、絶対持ってかえってくるからなー!」
「ええ。楽しみにしてるわ。」
宿屋の入り口まで見送ってくれたビビにルフィは振り返って手を振った。

時刻はほぼ、夕暮れ時。
何ひとつ遮るもののない砂漠に楕円形になったオレンジ色の太陽が沈んでいく様は圧巻だった。
それに背を向けてルフィとゾロは東を目指す。
さくさくと、2人は砂を踏んで歩く。
日中の太陽熱を残した砂は、まだまだ熱い。
「なんかさ、ゾロと2人きりってのも、ひさしぶりだな!」
そんな熱い砂地だというのに、平地を歩くのと変わらない、弾んだような足取りでルフィは歩いていく。
くるくるかわる表情。
「そうだな。」
「なんだよ、ゾロはうれしくねえのか?」
「いや。おれもそう思ってた。」
ルフィが自分と同じことを考えていたのが嬉しかった。
お互い、夜目は利くほうだが、この薄暮の中では輪郭しか見えない。
ルフィの側からは、ゾロの精悍な横顔のラインと、ほの白く光る鋭い目が見えた。
ゾロはルフィよりも大きくて、最近では泰然として頼もしかった。
そばにいると、いつも包み込んでくれる感じがした。
ゾロは、横目で時折、ルフィの横顔を見ながら口元が自然に緩むのをとめられなかった。
つんととがった鼻と顎、暗がりの横から見ても大きな瞳。
いつもいつも、何かしらしでかしてくれるが、それすら愛しいと思うのは自分にとってきっとこの船長だけだろう。
そんなことをお互い思いあいながら。
2人は、こうして一緒に歩いていることの幸せをかみしめた。
こうして歩いているだけで、何か通うものがあった。
ごく自然に、そっと手を握りあった。
だが、ゾロが握ったルフィのその手はかさかさと渇いていて、いつもみたいにしっとりと体温の高いルフィの手ではなくて。
熱を持ったような感じが心配になって。

「見つからなくても、がっかりするんじゃねえぞ。」
ぎゅっとルフィの手を握ってやりながら、ゾロは言う。
「だいじょうぶだ・・・絶対、みつかる!」

**********

どれくらい、歩いたか。
そろそろ戻ろう、ゾロはそう何度も言いかけた。
けれども、そう言いかけるたびに何かを察するらしいルフィが、ぎゅっと手を握り返してくるから。
その目はずっと前を見据えているから。
結局、ゾロも黙って歩きつづけた。
いつのまにか、残照さえも消え去ろうとしていた。

まだか、まだか。
そう思ったのはきっと、実際の時間にしたら1時間にもならないのだろう。
と、その時。
空気の中にわずかな水分が感じられた。
2人の歩みが慎重になった。
そして。

「あ・・」

先刻にわか雨が降ったと思しき個所に。
ぽっ、と浮き上がるように咲いた、花。
一重の花弁。
肉厚の葉もなく、尖った茎も顎なく、ただ花だけが浮き上がったように砂地に咲いて。


それは、例えようもなく幻想的な光景だった。
群青色の空。
僅かに金色の残光をとどめた砂漠。
そして、咲き乱れる、花、花、花。
ぽっかりと、砂漠の中に出現した花畑。

花々はどれひとつとして、同じ色合いのものはなく。
柔らかな白、アイスピンク、薄い水のようなブルー。
すべて、淡い色彩のみの花々。

それにも増して特徴的だったのは、その香りだった。
みずみずしくて、こちらまで癒される香り。

「これが・・・ムーンフラワーってやつか・・・。」
ゾロもそう感想をもらしただけで、後は2人とも黙ってその花に魅せられたように立ち尽くした。

「なあ、ゾロ。」
「ん?」
「何か、この花、ビビみたいだな!」
儚げで、でも強くて、懸命に咲き誇る綺麗な花。
それにルフィは、この国と人々のために、一生懸命なビビを重ねあわせていた。

(いや・・この花みたいなのは、ルフィ、お前のほうだ)
ゾロはそう思った。
存在するのが、奇跡みたいな、花。
ここが砂漠だというのを忘れさせてしまうような、花の香り。
みずみずしい熱気が空気に溶け込む。

「うーん。」
暫し、花々に見惚れていたゾロだが、何かを考え込んでいるルフィに現実に引き戻される。
見れば、ルフィは砂地に座り込んで両手でそっと花をかこっていたが、摘もうとはせず、時折小さく唸りながら考え込んでいる。
「どうした、ルフィ?」
「やっぱり、やめた!」
突然、決意したようにルフィが言う。
「?」
「こんな、きれいなもの、摘むのかわいそうだ!・・・持ってかえるって約束しちまったけど・・・」
「大丈夫だ。あいつらだったらわかってくれる。」
「そうだな!」

だから、せめてこの光景を目に焼き付けておこう。
そして、砂漠に咲く奇跡の花のことを、みんなに話してやろう。
「いいかおりだ〜!」
花を前にして、深呼吸して笑うルフィを眺めていたら、どうしても我慢できなくなって。

ゾロはルフィの傍に歩み寄ってその顔を覗き込むと、不意打ちでルフィにキスした。

「ゾロ!?」
ちゅ、と音をたてて触れた唇に吃驚して目を見開いたルフィに言い訳がましく、それでも肩をつつみこんだ手は離さずにゾロは言う。
「・・・キスだけ、だから。いいよな?」
「キスだけ、なのか?」
上目使いに幾分、笑いを含んでルフィがゾロを見上げる。

「・・・しちまってもいいのか?途中で気が変わっても止めてやらねえぞ?」
「んん!・・・本当はおれも、だったし。」
しししし!と屈託なく笑う船長に、剣豪は笑って再度口付けた。
そのまま、ゆっくりと砂の上、ルフィの身体を横たえる。

後、一刻後にはうたかたのように消えてしまう、花。
その花々の甘い甘い匂いにつつまれながら。
月が傾き、むき出しになった素肌の汗が冷えるまで。
その側の砂の上で、2人は抱き合った。

***********

「あら、おかえりなさい。」
仲間がみな集まった大部屋で、そう言って出迎えてくれたビビに、ルフィはすまなそうに報告する。
「ごめんな、何かあんまりキレイだったから、摘むのかわいそうになっちゃって持ってこれなかったんだ。」
でもな、でもちゃんと咲いてたんだぞ、うそじゃないんだぞ、と一生懸命言うルフィに。

「ええ、わかってるわ、ルフィさん。」
ふわり、と笑ってビビはその指先をルフィの髪に伸ばした。
訝しそうに目を眇める剣豪の横で、ビビの指が何か白い小さなかけらをつまむ。
さっき被りなおした、麦藁帽子に隠れるように。
ルフィの黒い髪にくっついていた1枚の白い花弁。
「ちゃんと、受け取ったわ。ありがとう。」

ふわわん、とその花びらからも、それにルフィからもゾロからも、あのムーンフラワーの香りが微かに匂いたった。
「あら?いい香り・・・。」
「おれ、香水とかは鼻が曲がりそうで駄目だけど、この香りは好きだぞ!」
くんくんと、小さな鼻をうごめかしていたチョッパーがそう言うと、それに興味をそそられたように、
「キュウリ、リンデン、フリージア・・・例えるならそんなとこだな。みずみずしくて、新鮮ないい香りだな。」
くん、とルフィに近づいて、服に鼻を寄せ、その立ち昇る香りをかいだサンジがそう分析すると。
「サンジ、匂いのかんじが、わかるのか!?」
「まあ、一応コックだからな。」
「すげーなあ!」
素直にルフィは感心する。
「どうやったって人工のものじゃ、作り出せない香りよね。」
手にした、華やかで精巧なガラス細工の香水の小瓶とルフィを見比べながら、ちょっとくやしそうにナミが言う。
「ナミ」
私も行けばよかったかしらねえ?とルフィとゾロを見比べながら、何か見透かすように笑うナミに、2人は必死にそ知らぬ顔を作ろうとする。
「けど、ナミさんのつけてる香水もとってもチャーミングですって!!」
「ありがと。」
とりなすように言うサンジに、にっこり笑い、それからナミは花の様子を聞きたがった。
「なんだ?ルフィ戻ったのか?ん?何かいい匂いするなあ?」
部屋に響く楽しそうな笑い声と小探検の話に、今まで完全にのびてしまっていたウソップも目を覚まして輪に加わる。
その夜、皆が疲れて眠くなるまで歓談は続いた。


灯りを消した部屋の中で、ビビはそっと微笑んだ。
胸があたたかかった。
そして、心の中で何度も何度も呪文のように確信に満ちて繰り返す。
・・・大丈夫。
まだ間に合う。
決して、ユバの街は、この国は滅びたりなんかしない。

**********

そして海賊たちが旅立ってしばらくたった日。
炎天下。
相変わらず、穴掘り作業をしていた男の目が驚愕に見開かれる。
しゅっ、と。
さっきまで、じゅわ、と申し訳ない程度にしか染み出てこなかった水が、音とともに急に吹き出したのだ。
こんこんと、後から後から水が湧き出てくる。
透明で、砂の熱さが移ってもまだまだひんやりしている水が湧き出てきて、あっという間に腰あたりまで浸かっている。
手に掬って一口飲む。
水を尊ぶ気持ちは以前からあった。
だが、これは特別な水。
「ルフィ君・・・君が掘った穴から、こんなに水が出たよ・・・大丈夫、ユバは滅びたりなんかしない。」
かさかさになった、手を、口を、肌を潤す水の感覚。
トトは泣き笑いに顔をゆがめた。
街の人々の歓喜の声が近づいてくる。


・・・君が、希望を、命をつないでくれたんだ。


end





ちょっと、間が開いてしまってたんで、ほとんど試験的というか、突発的に思いついて書いたお話です。
が、なんじゃこりゃあという中途半端お話に!・・・ほんとになんなんだろ(泣)。
ちなみに、”ムーンフラワー”というのは、BODY SHOP製のコロンの名前です。
ここのブランドは結構好きで、このコロンもお気に入り・・・で、そのイメージしたお花から、今回もイメージを膨らませていった・・というわけでして。
今ってWJ、ゾロルないし、戦闘(おもしろいけど)突入で大変な状況・・でも、あの、水が出てきたあたりの話はすごく感動しました。
やっぱり、あのあたりってかなりさらりと描かれてましたが、何かあるだろう〜♪(だって、あのゾロの寡黙&信頼ぶり!)
・・・今度はちょっと甘く。