”This is My life!”


誰かに呼ばれたように。
不意に私は目を覚ました。
何だろう?
胸が、どきどきしてる。
いつもと変わらない朝なのに。
何かが。


まだ寝ているロビンを起さないようドアを静かに開けて甲板に出る。
もう夜明けだと思ったのに。
外は、まだ冷えた藍色と銀の世界だった。
星の名残りが西の空で瞬いている。

「?」
誰もいないと思ったのに。
羊の頭の船首にまたがって、海を眺めている見慣れた背中。
「ルフィ?」
「お?ナミ、早いな?」
「あなたこそ。」
「何かが呼んでるみたいでさ、目が覚めちまった。で、外に出て海見てた。」
「そう。」


とぷん、たぷん・・・。
ひどく静かな波の音。
ルフィは船首の上で、私はその下の手摺にもたれて。
しばらくは2人無言。
そういえば、さっき目が覚める前はずっと昔の夢を見ていた気がする。
ずうっと、ずっと、変わりたいと願っていた小さな頃の。
今もまだ、夢の続きみたい。
妙に、現実感が薄くて儚いような。
夜明けの直前は切り取られたような不思議な空間。
でも、2人きりだっていうのが妙に息苦しくて。
私、変だ。
つい。
いつもだったら絶対口にしないようなこともするりと紡ぎだされてしまった。

「ねえ、ルフィ?」
「ん?」
「私、あなたが羨ましいわ。」
「おれが?」
「ええ。」
んー?と不思議そうに首を捻るルフィ。
でも、ルフィにだけは私のことも全部知っていてもらいたい、なんて妙な焦りがあって言葉はどんどん口から勝手に出ていってしまった。

「私、ね。こんな自分じゃなくて何をしても許される、何をしても愛される、そんな人間になれたらなって、よくそう思うの。」
「何言ってるんだ?ナミはナミでいいとこ、いっぱいあるぞ?頭だってイイし。」
私が何を言いたいのかわからなかったらしいルフィは、懸命に私のいいところを探してくれようとしている。
「じゃなくて。あのね、世の中には、どんな突拍子もないことしても好かれる人間っているでしょ?逆にどうしても間が悪い人間も?別に私は間が悪い人間ってわけじゃないけど、そりゃかわいいし頭もいいしスタイルもいいけど。誰からも好きになってもらえるかっていったらそうじゃないし。」
「?何言ってんだ?お前?」
大きな目をぱちくりさせて、ますます首を捻るルフィ。
本当に、あなたほどいろんな人と仲良くなれる人って見たことがないわ。それはちょっぴりの嫉妬。
「好かれたくって、その好かれる人間の真似をしてみるでしょ?でも真似したからって好かれるとは限らないのよね。もう人徳みたいなものかしら?だから何しても許される、そういう人間になりたいなあって思ったの。」
あなたみたいな。
できたら皆に好かれたい。好きな人にはもっともっと好かれたい。
何故か、一気に捲し立ててしまった。
それは嫌味じゃなくて本当に心の底からの本音でもあり誉め言葉でもあったのだけど。
ひどくルフィは不機嫌になって。
口をとがらして、ガン、と両足で羊の船首を蹴った。

「ばかじゃないのか?お前!」
「え?ちょっと、何を急に怒って・・・」
「そんな、人の真似したってそれで好かれるわけねえじゃん!」
ていうか、マネすんな!だってそれは、最初にやった奴だけのオリ・・オジリナリティだろ?
そう、ルフィは頬をふくらませて言う。
「・・オリジナリティね?・・・それもそうか。」
「ああ、そうだ!」
「そうね。ごめん。」

直感で、すべての核心を見抜いてしまう船長のその言葉は。
素直に、すとんと心に落ちた。

オジ・・・じゃなくてオリジナリティ、うん。
そう、ルフィはかまないように舌の上で言葉を転がしている。
「おれだって、ナミに勝てなくてうらやましく思ってるとこいっぱいあるぞ?でも、別に全部勝たなくたっていいんじゃねえのか?」
そうよね、その人だからこそ許されるように見えて、羨ましかったりもするけど、本当は違う。

見返りを求めないあなたは強くて、そしてきれい。
たった一人だけで歩んでいくその道にはでこぼこがいっぱいあって。
誰もがしないことをしようとする時、その人を世間は笑うかもしれない。
それでも前を見て進むから、この世に2つとない輝きを帯びる。
人の後しかついていけない人間は、きっとその輝きを持つことなんてできやしないんだわ。

「ん。わかればいい。」
許す、と妙に厳かに頷くルフィが可笑しくて。
つい噴出した。
まったく、らしくないことを言っちゃったけど。

でも、でもね、ルフィ。
羨ましいってのはウソじゃないけど。
やっぱり私はあなたが大好きよ。
あなたに会えて私は生まれ変わったの。
そしてあきらめかけていた自分の道も取り戻せた。
誰にだって胸をはって言える私だけの夢を。

不意に。
少し冷たい風が頬をかすめた。
夜が明けようとしている。
「ねえ、ルフィ、私もそこに行っていい?」
「んん?」
「もうすぐ、夜明けよ。この船は今、東に向かって進んでるの。世界で一番最初の太陽が昇るわ 。それをそこで見たいの。いいでしょ?」
「おお、いいぞ!」
ルフィは、私の伸ばした手を掴むと、軽々と船首に引き上げた。
見かけよりもずっと強靭で、いつでも仲間を守ってくれる腕。
この腕を独占できないのはちょっと淋しいけど。
あなたの心を占めている人間が誰かなんて百も承知だけど。
一緒に旅していける、それだけで今は満足よ。
羊の頭の形をした船首は、2人も座るとぎゅうぎゅうになってしまって。
こんな所に2人で座ってるって情況は一体人が見たらどう思うんだろう?特にあいつは。
小首を傾げて笑いかけると、きょとんと目を丸くしながらも素直に笑いを返してくれる。
そう、すべてを笑い飛ばして?
今だけ、だからいいよね?
そうっとルフィの肩に頭をもたせかけると、驚いたような顔をしながらも、ぽん、ぽん、とあやすみたいに軽く叩いてくれる。
ああ、この場所はとても安心できるわ。


お互い、落ちないように肩に手を回して支えあいながら。
2人で東の一点を見つめる。
どきどきどきどき。
世界に響き渡る、私の鼓動。

水平線が僅かに瞬いた。
銀から始まって。
瞬く間に色のあらゆる色彩が爆発しそうに輝いて空と海を染め。
灰色、銀、白、黄色、桃色、そして金色の光が走り、水色、青が広がっていく。
色の大洪水。
そうして、夜は終わって。
鮮やかな目まぐるしい色の変化と共に、新しい日が生まれる。

「見ろよ、ナミ!夜明けだ!」


小さな頃。
常夏の国に囚われていた女の子は。
毎晩、空を見上げて祈ったわ。
いつか、こんなことが全て済んで。
そしたら世界を見に旅立とうって。
”明日”が来たら。
”明日”って国にはきっといろいろな夢がつまってるんだわ。
だからそれを探しに行こう。
すごくすごく、家をはなれてきてしまったけど。
でもあの頃の夢は変わらない。

もう、祈らなくていいんだ。
だってここが私の明日。



end




Ninaのアルバムを聴きながら書いたSS。(何かいろいろ歌詞混じってるぞー。) 何か、1.5時間で一気に書き上げちゃった・・・何か降りてきてたのかしら?(怖)
ルフィの魂のありようには、一年前も今もすごく惹かれます。文中のナミにはちょっと自己投影しちゃってます・・・。
ある日のこと、駅のホームで電車を待ちながらぼーっと考え事してたんです。
世の中には何をやっても許されちゃうし愛される人っているよね、ルフィみたいに。 逆に何をやっても生意気だって言われる人間も無視されちゃう人間もいる。間が悪くて。 どっちかというと私は後者なんですよ、ルフィは前者だよね? ああ、私もそんなルフィみたいな人間に生まれつきたかった・・・自分と正反対だからルフィが大好きなんだろうなー、などと埒もないことを考えていましたら。
唐突に、上の文のルフィの声が聞こえたんですよ、人の真似したって好かれるかー!って。 というのはちょっと大げさですが、でも一瞬にして悟ったというか。 やっぱり、ルフィってすごく好きだなーv原点にかえったちーちゃんでした。 ちなみに!ちゃんとゾロル風味も混じってるんですよ!(ホント←すごい必死)