背景に広がるのは紺碧の海。
ふわふわと、麦わら帽子からはみ出た黒い髪が揺れる。
すらりと伸びた手足。
一心に前を見据える、自然なのに潔い後ろ姿。
ふと。
羊の頭の形をした、船首を跨いでそのすらりとした脚をぶらぶらとさせていた少年が振り返る。
そして、背後に立つ自分の姿を認識したかと思うと零れ落ちそうなほど、大きく目を見開く。
その大きな目は、みるみるうちに、潤み。
軽く、船板の上に降り立つと少年は駆け寄ってくる。
そして、とん、とゾロの肩におでこを預けるようにしがみついてきた。
・・とくん、とくん・・・。
伝わってくるのは彼の心音だろうか?
彼が顔を埋めた肩口が、暖かく濡れてくるのは涙のせいだろうか?
「ゾロ・・」
(何を、そんなに泣くんだよ?)
「・・だって」
(泣くんじゃねえよ・・どうしていいかわかんねえだろ・・・・?)
その少年の名前を呼ぼうとして・・・ゾロはその少年の名前を知らないことに気づいた。
199×年、秋。
朝の光が薄緑のカーテンから差し込んでくる。
ちゅんちゅん、とスズメの鳴き声がして。
寝起きは最悪だった。
そういえば、昨日は海の雑誌を見ながら眠ってしまったんだっけ?
やけにリアルな夢だった。
そして、まったく知らない人間が出てきた。
「ゾロ?起きた?早くしないとまた遅刻だよ?」
2つ年上の姉が部屋のドアをノックして顔を覗かせる。
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