サクラソウ


新しい仲間の7段変形トナカイ・チョッパーを仲間にしたお祝いは、夜中すぎまで続いた。
いろいろ大変な一日だったけど、仲間も増えてナミの病気もなおってよかった。
みんなが、つかれきって眠ってしまってから、おれはそっと甲板に出てみた。
ある「ヒミツ」を早く、あいつに渡したくて。
相変わらず、雪はしずかにしずかに降っている。
きょろきょろする度に、白い息がまわりにふりまかれる。
世界はますます白くなって、世界におれただ一人みたい。
ゾロ、どこにいるんだろう?
早く、ヒミツを渡したいのに。
忘れないように、なくさないように。
こそっと麦わら帽子の中にヒミツをひそませて、ゾロを探す。
ヒミツのせいでちょっと麦わら帽子が浮き上がってるみたいに感じるけど。
ん、問題なし!

後甲板で、やっとゾロを見つけた。
黒いコートの広い背中をこっちに向けて相変わらず酒を呑んでる。
さっきも呑んでたのに、どれだけ呑むんだろう?

「ゾロ」
とっくにおれが後ろにいるのに気づいてるんだろうけど。
呼ぶと、振り返ってちょっと眉毛と口の端をあげて、どうした?って表情を作った。
やっと見つけた。
それだけでもう、ほわん、と胸からあったかくなる。
にっと笑いながらゾロの傍まで歩いていって、座った。
ゾロにぴったりくっついて、しししし、と笑うと。
ゾロも、なんだよ、って横目でおれを見て笑ってくれる。
白い息を吐くのが2人になった。
夜の黒い海に降る白い雪。
白が世界を取り巻いてその中で2人きり。
そっと、気づかれないように横目でゾロを見る。
白い世界に、髪と目の淡い緑が浮かんでてとてもきれいだ。

お前もやるか?とゾロが酒を差し出してくるのを、一口だけもらう。
強くて鼻がつーんとして、ちょっと舌と喉が灼ける代わりに身体は少しあったまった。
「ゾロはやすまなくっていいのか?」
酒の瓶をゾロに返しながら言う。
ゾロだって今日はおっさん担いでウソップ達と山を登ったり大変だったはずだ。

「おれは昼に寝てっから大丈夫だ」
瓶からぐいっと酒をあおりながら、ちら、と横目でこっちを見て。
そういや、と呟く。
「おれが昼間寝てて文句言わねぇのは、お前くらいだな」

「なんで?おれが文句言うんだ?言う理由なんてねェじゃん。」
だって、おれはちゃんと知ってるし。
ゾロは、昼間、おれやサンジが起きてる時に眠っててそういう時の眠りはかなり深い。
反対に夜は、すこしは眠るけど、その眠りは浅い。
そうして、大抵は甲板で酒を飲みながら明け方近くまで過ごす。
そう言うとゾロは、知ってたのか、と満更でもないように口元を緩めた。

「ゾロは夜を見張ってるんだ。だからいいんだ。」
一生懸命考えて言った言葉は、何か変かな?という言い方になってしまったけど。
「ハハ、夜を見張る、ね。いいな、その言い方。」
ゾロはその言葉をかなり気に入ってくれたみたいで。

「・・・だから、船長。明日に備えてもうお休みになってくれたほうがおれとしては嬉しいんですが?」
ケガ、してんだろ?それに相変わらず、寒そうなかっこしてよ、と袖が片方とれてしまったおれの片腕を、そのおっきな手でちょっとさすってくれた。
あったかい・・・これじゃ、おれ何のためにゾロ探しに来たんだ・・・って、あ!
忘れてた!
いきなり叫んで立ったおれに、ゾロはかなりびっくりした顔をする。

「おれ、ゾロに渡したいもんがあったんだ!!」
ゾロの顔を見下ろしながら言うと。
まだ、びっくりしたままの顔だったゾロは、ああ、と頷いて。
「おれも、お前に渡したいもんがあった。」
と言って、まあ座れよ?とおれの手をひっぱってまた甲板に座らせた。
そして、自分のコートの内側に手をつっこんで、何かを取り出そうとする。
何だろう?ゾロがおれに渡したいものって?
気になる。
んでも、おれも早く渡したい。
そうだ!

「じゃ、ゾロ、いっせーのせ、で出さねぇか?」
「了解、船長。」
ゾロもそれを受け入れてくれて、お互い、準備をととのえて。
「いっせーの、せ!」

で、おれは麦わら帽子の間から、ゾロがコートの内側から差し出したものは・・・。

「あ」
「あ」
2人してまじまじと、相手の顔を見て、そしてもう一回お互いが差し出したものを見て固まってしまった。
だって。
2人の手に同じ小さなサクラソウのブーケ。

「な・・・んでゾロが?」
「そりゃこっちのせりふだよ、ルフィ。どうして同じもんが・・?」
「おれは、さっきの港で、女の子から買った!」
「あー、あれだろ?あの、大切な人への贈り物に・・ってやつ。」
「おう!」

おれもだ・・・とゾロは困惑したように、頭の後ろをがしがしかいてる。
「なんだよ、結局同じもん買っちまったってわけか!」
「そうみてぇだな・・・。」

「ぷ」
「はは」
次の瞬間にはそれがおかしくって2人して笑い出した。
笑い声は雪に吸い込まれていくように消えていくけど、そうしてしばらくおれ達2人は笑ってた。
だって、おかしくねぇか?
2人して同じことを考えて、同じものを贈ろうとしていた。

**********

ドラムを出るまでのわずかな時間。
「とりあえず、各自、必要なものだけ買ってね。」
急ぐんだから、というナミの言葉で、みんな1時間だけ時間をもらった。
といっても、日用品なんかはサンジやウソップが買いに行くから特におれは買うもんなんてねぇんだけど。
手持ちぶさたで港付近をぶらぶらしてると。

「お花はいかが?かわいい恋人に春の贈り物はいかが?」
急に女の子の声がするのに振り返ると、にっこりと首を傾げてかわいらしく籠をさしだされた。

春のおくりもの、かあ。
ポケットの中には、ナミにもらった何枚かのコイン。
それで十分足りそうなものだった。
でも。
いっこだけ引っかかる言葉がある。

「なあ、コイビトってなんだ?」
おれは大まじめに聞いたのに。
サンジよりもつやつやして長い金髪をした女の子は、一瞬ぽかんと口をあけた。
次の瞬間には弾けるように笑い出した。
しまいにはその緑色の目に涙が浮かぶくらい、笑っていた。
なんだよー、とおれがふくれるとようやく女の子も笑うのを止めた。

「ごめんなさい。あのね、コイビトってのは、大好きな人のことよ。」
コイビトって言葉を知らない人、子供以外じゃ初めて見たわ、と目元をぬぐいながら言う。
「ダイスキな人のことを言うんだな?」
「そう、その人がうれしそうに笑ってくれると自分もうれしい。ね、だからお花、買ってプレゼントしてみない?」

そう言われて籠の中を覗くと、そこにはピンク色の、小さな花束がいっぱいつまってた。
「サクラソウっていうのよ。こんな冬の島でも咲くとこにはちゃんと、お花だって咲いてるんだから。」
さっき、すごくすごくキレイなピンク色の雪が降った。
チョッパーが、それはある人の研究の成果なんだ、とうれしそうに教えてくれた。
最後の最後に、それをあのおっかない医者のばあさんが贈ってくれたんだ、と。
この、サクラソウって色といい形といい、その時のことを思い出させる。
そして、ダイスキな人に・・・おれも、何か贈ってあげたいと思った。

がんばってね、と言う女の子からおれがサクラソウを買った直後にゾロもその子からサクラソウを買ったらしい。
**********

結局、同じものを買ってしまったおれとゾロは、互いのサクラソウを交換することにした。
不思議だ。
ただ、こうしてもらった花を見ているだけなのに、なぜかうれしい。
かすかな匂いをかごうと鼻の前に持って来ているだけで、笑いがこぼれてきてしまう。
うれしい。
そうか、おれ達って「コイビト」同士なんだ!!
初めて知った。
ゾロからもらった花。
いつもは、声に出して全開で出てしまう笑いが、なぜか、花を壊さないようにしずかにしずかに笑わなくちゃならない気がして。
でも、笑ってるおれを見て、そしてサクラソウを見て、ゾロもうれしそう。
チョッパーのサクラと同じように、これも喜ばれる花なんだ、きっと。
すごく、しあわせな気分になって、心の中がどんどんいっぱいになっていって。
おれはそれを言葉にしたくなった。
だから。

「ゾロ、スキだー!」
思いっきり、雪の降ってくる空に向かって。
音が吸い込まれる世界に負けないくらいに声に出して言ってみる。
ゾロは、いきなり何だよ?って顔してるけど、しっかり顔、赤くなってるぞ?暗くてもわかる。
「そうか。」
何かいつもよりぶっきらぼうだったりして。
「うん、ダイスキ!!」
おれは負けずに、声に出す。
「お前ほど素直に言える奴もめずらしいぞ。」
ちょっと笑ってゾロが言う。
「あ、それナミも前に言ってた。」
「ナミも?」
いつか、台所で2人でお茶を飲んでた時に。
スキだって、あんたはよく言葉にできるわね、って言ったナミに。
「そうなのか?」
たずねると。
「そうよ。好きな人に好きっていうあたりまえのこと。そんなあたりまえのことがができない人がほとんどだもの」
ふーん、とおれは首をかしげた。
そんなもんなのかなあ?

「でもね。ありがと、ルフィ」
「んん?何がだ?」
「また、好きな人に好きって言えるってことが素敵なことだって思い出させてくれたってこと。・・・ありがと」
「おお?なんだかわかんねえけど・・・気にすることねえぞ!」
「ふふ」
紅茶の湯気の向こうで笑うナミは本当にキレイで、うれしそうで最初に会った時とは別人みたいだ。
だからうれしくなって、どんどん、おれはダイスキなゾロのことを話した。
とまんなくなった。
「でな、聞いてくれよ!ゾロってさ・・・」
うんうん、と何故か面白そうな目をしたナミに、いっぱいいっぱい、ゾロがどんなにかっこよくっていい奴かって話した。
そしたら、最初は面白がってたのに、ナミ、だんだん不機嫌になっていくんだ。
しまいには。

「あー!もう!・・・いいから、さっさとゾロのとこに行きなさい!」
怒鳴られた。
「なんだ?なんでナミ怒ってるんだ?」
「うっさい!」
怒るナミに聞いたら、なんでも、おれの話はノロケとかいうんだそうで。
それがいけないのかなあ?
おれは、ゾロが好きで、ゾロもうれしいことにおれを好きで、おれはゾロがとってもすごい奴だって、とってもやさしいんだってことを説明したいだけなのに。
そう言ったのに、ナミはわかってくれなかったみたいだ。
更に。
「いっとくけど、私はまだ心が広いほうよ?小一時間もあんたの話をきいてあげたんですからね!」

「・・・って怒られちまった。」
「・・・ルフィ」
「ん?」
「そういう話は、あんまり人にするもんじゃねえんだぞ・・。」
何でかわかんないけど、ゾロはかなり弱ったみたいで、よりによってあいつに・・・とかぶつぶつ口の中で呟いている。
しばらく、あー、とかうー、とか唸りながらゾロは頭をがしがしやってたけど、思い直したみたいに。
ま、バレちまったもんはしょうがねえか、と息を吐いた。
それから、おれの方を向くと、にやり、と笑った。
緑色の目が底のほうからちかっ、と光って。
あ、こういう時って大抵は・・・と思ったときは既にゾロにキス、されていた。

触れてきた唇は最初、ひやっとして冷たかったけど。
ぺろり、とおれの唇をなめて入り込んできたゾロの舌。
もぐもぐ、まるでおれの舌を食べてしまいそうな動き。
「んん、・・・んむ・・・」
鼻にかかった、甘ったるい声が出てしまう。
外は寒くってもお互いの口の中はあったかかった。
すっかり気持ちよくなって、もっともっとあったかさが欲しくなって、サクラソウを横において。
キスしながら、ゾロの首筋にぎゅう、と抱きつく。
ゾロもおれの肩と腰に腕を回してきて、ぎゅう、と力いっぱい抱きしめてくれた。
冷たくなったところを、舐めて溶かすみたいなキスをしばらくして。
甲板に座り込んだまま、しばらく、くっつきあってあっためあってたら、眠くなってきた。
しっかり、後ろから抱っこしてくれてるゾロの広い胸に背中をくっつけて。
はふ、と満ちたりた思いであくびをしながら考えた。

たとえば。
うんとうんと考えて。
ヨウイシュウトウに準備したことだって。
案外、相手は喜んでくれなかったりするけど。
でも、時々でもお互いおんなじことを考えてこうして想いあっていけるのってすごくしあわせなことだとか。
そんなとりとめないことを考えながら、おれは眠ってしまったらしい。
ゾロも、しっかりおれを抱っこしたまま、眠ってしまったらしい。

***********

2人が眠りにおちてから約1時間後。
「やっぱりね」
夜が明けて2人を探しに来たナミとサンジは、後甲板でお互い抱き枕状態で眠る2人を発見した。
寝息をたてる2人の傍には、ちょこんと置かれた麦わら帽子と2つのサクラソウのブーケ。
「こんなことだろうと思いましたけどね。・・・どうします?」
「しばらく寝かせておいてあげましょ。」
雪が止んで、朝陽が柔らかくあたりを照らす中、ナミは微笑んだ。
そして、思いついたように眠る2人の傍にしゃがむと。
「恋はね、考えすぎるとできないものなのよ・・あんた達は頑張りなさい。」
そう言ってそっと、ルフィの髪をなでた。
ひどく、やさしくて自然な仕草だった。
それを見たサンジはまぶしそうに、面映そうに目を細める。
それに気づいたナミは、照れを隠すように、今度は隣に寝ていたゾロのおでこにデコピンをする。
「・・・まったく、幸せそうな顔しちゃって。」

***********

その時、おれは夢を見てた。
あとからあとから、サクラソウが降ってきて、麦わら帽子にもまわりにもふわふわふわふわ、いっぱいつもる夢。
ゾロは。
やっぱり、そんなおれの隣で笑ってて。
それだけの夢だったんだけど。
すごくすごく、しあわせな、夢だった。

end




ゾロルの絆とは何ぞや?


ゾロとルフィの絆とは何ぞや・・・?と考えて書いたお話。
だって!前のSSがあんまりにも・・・だったんだもん!!(泣)
だからリベンジなんだもん!(泣)こっちのがまだ納得できるし!
元ネタ・・・ジョー○ィ(←まず、若い人にはわからんアニメでしょうな・・・)
お花ネタが多いですね、私の場合。でもお花ってもらうとすごーくうれしくないですか?(私だけ?)
お互いで花を贈りあうって話・・・アニメではドラム編、あの桜のエピソードはやっぱりね・・・感動します。
すいません、外見に似合わずロマンチックだったりします、ちーちゃん。(ほら、清純派だから!!)






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