最後の仲間が息絶えていこうとしてる。
なのに。
おれはまだ、信じられなかった。
最後まで自分を守ると言ったその口元から血がしたたって、拭ってやろうとした指の先に感じるのは冷たくなっていく感触。
何もかもが、大好きだった。
大好きだった瞳。
大好きだった・・・その身体はここにあるのに、肝心のそれを動かすものの無い、身体。

さっきまでは確かに「ここ」にいたのに。
「ここ」ではないどこか遠くへいってしまった。
なあ、どこに行けばお前に会えるんだ?

「約束、したじゃねえか・・・。」
途方に暮れてつぶやいてみても。
お前はいるのに、もういない。

油が撒かれる臭い。

そんな時に思い出すのは楽しかった時のこと。
こんな結末を迎えるなんて全然知らなくて笑いあえた遠い日のこと。

**********

それは、まだ冒険の途中。
船長の兄と名乗る男が帰ってから・・・。

「やっぱり戦うことになるのかなー。」
船の柵についた腕をぐーっと伸ばして空を仰ぎながら、彼が消えていった先の水平線を見つめ、船長はぽつりと呟いた。
「・・・・・」
「シャンクスともいずれ戦うことになるんだろな。」

困ったなといいながらも全然困った風でなく、笑ってさえいるのは、既に覚悟を決めてしまっているからなのだろう。
それなら、話は簡単だ。
「・・・他の誰でもねえ、おれはお前を海賊王にならしてやりてえんだ。」
自分は船長の剣豪として彼を守る。

船長にも、それが偽りのない剣豪の本心であることが伝わったようだった。

「ゾロ・・・」
「おれは最後まで必ずお前の側にいるから。守るから。」

後ろから抱きしめてくる腕。
「何だよ、約束したじゃねえか。じゃもう一回約束するか?」
よほど自分は驚いた顔をしていたのだろう、不意に彼は苦笑した。
その腕に包まれる感触も、何もかもが全部好きだ。

「おう!指切りな!指切りげんまん、うそついたらハリセンボン飲ーます!」
「(笑)・・・お前の兄貴にもよろしく頼むって言われたからな・・・了解、船長。・・・おれは世界一の剣豪になってもずっと側にいてやるよ。」
「ん・・・約束だぞ。」

くるりと後ろを振り向いて、未来の大剣豪の首に腕をまわして抱きついた。
自分の2倍以上はある太い首筋。
刀を身体の一部のように扱う、がっしりした肩。
ひなたみたいな、あったかいにおいのする白いシャツ。
しっかりと腰を支えてくれる腕を感じながら目を閉じた。
触れ合った唇に軽く痺れを感じた。
太陽の光が瞼の裏側にのこって白くちかちかして。

”海賊の高み”へ

そう、あの光にまで届きそうな、その腕の中。

**********

何で今それを思い出すのだろうか。
火は既にあちこちをなめまわしている。
もう直に格納庫に常備されてる爆薬や砲弾まで届くだろう。

ちり、ちりと炎が髪を焦していって、逃げなければ命さえ危ないことを感じてるけど。
でも、もうそれにかまうことはない。
もう、全部いらない。

一番最初に出会って、一番最初に仲間になって、一番最後まで一緒にいてくれた男。
そうか、この状況って最初に出会った2人きりの時と同じなんだ。
最初と、最期で2人きり。だけど、おれは楽しかったし。
それに最期の最期までそいつはおれを守ってくれた。

ゴーイングメリー号。
思い出がいっぱいつまった宝箱みたいな船。
やっぱり、おれもそっちに行くことにするよ。この船と一緒に。
お前には怒られるだろうな。
まだ、海賊王になる夢は潰えたわけじゃねえだろう、おれ達のしたことを無駄にする気か、って。
きっと、あっちに行ったら散々、怒るんだろうな。
目に見えるようだ。
けど。
それは、「お前がいなきゃ、全部意味がない。」
なんで、もっと早くに気づかなかったんだろうなあ。
"寂しいからってロクでもない考えおこしてんじゃねえ!"
お前の怒鳴る声が聞こえてきたような気がする。
寂しい? 寂しくなんかないよ。
だって、これからお前に会いにいくんだもの。

屈んで、震える指先で冷たくなった頬を包み込み、最期のキスをした。
冷たい血の味。

・・・いつも思うけど、「さよなら」と新しい出発は似ているから、どっちもそんなに嫌いじゃない。

轟音。
振動。
閃光。
それは、いつか見た瞼の裏の白い光。

end




ゾロルーズが!!!


これも、ゾロルーズ即興SSです。
確か、エースが登場したあたりだったかな?
改めてゾロルを感じて(何故?)、作った甘甘なSSだったのですが・・・。
一回くらい、死にネタやってみようかと、変更したらこんな暗い話に!視点もルフィだかゾロだかわからないし。(だけどゾロル)
気が滅入るんで、このネタは当分やめときます・・・でも結構さくさくできちゃった自分が。
ああ、そうさ!ちーちゃんはもともと暗ーい暗い人間なのさ・・・(哀)。






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