First Love 〜Side-Luffy〜


1.



おれの写真入りの手配書が世界に出回った日、おれにとってはすっごい記念日みたいに思えた。

ウソップとどっちが有名になったのならないのってはりあって。

とにかく、うれしくてその日は夜までその”WANTED!”ってでかく書かれた手配書を持って離さなかったんだ。

これでおれもちょっとは有名になった、海賊王に近づいた、そしてシャンクスにも・・・そう思ったんだ。

ウソップはもちろん、自分の後ろ姿に鼻高々だった。

「そこまで嬉しいことかしらね。」とナミは、ため息をつきながら見ていた。

「はしゃぎすぎだよお前。」って、最初は自分が手配書に載ってないことにすねてたサンジも最後のほうはナミと一緒にあきれてた。


これでシャンクスに少しは近づけたのかな、おれ?

おれの夢に一歩近づく、それはシャンクスがいなきゃ考えもしなかたこと・・・。

シャンクス、シャンクス、もうちょっとでたどりつくよ。

もう何度となくシャンクスのことを思いながらさわりなれてしまった麦藁帽子。

そしてゾロは・・・最初は苦笑してたけど、だんだん、その顔から笑いが消えていった。

「・・・・・・」

ゾロの、碧の瞳がだす視線のちりちりとした感じ、それはずっと夜まで感じてた。


「・・ルフィ、ちょっといいか?」

夜、みんなが寝静まってから、ゾロにそう言って甲板まで呼ばれた。

「ちょっとさみーなー」

なんか、肌寒くなっておれは寝床から毛布を持ってきて、それにくるまりながら甲板まで出た。

羊の頭の形をした、船首の向こう、どこまでも水平線が広がってる。

本当に、境界線のぎりぎりまで星が光ってて、空と海との境目がわからないくらい、きれいだ。

そのまま、ゾロと甲板で星を見ながら、ちょっととりとめない話をして・・・酒を呑んで。

ちょっとだけ酔ってろれつがあやしくなってた。

「きれーだなー」

「ああ」

「なんか降ってきそうだぞ」

「ああ」

「一個くらいここに降ってこねーかなあ」

「降ってくるかよ、ばか」

「ばかって言うなー、キャプテンにー!」

「はいはい。了解、船長(笑)・・・(呑ませすぎたか、お子様に)」

「何か言ったか?ゾロ〜!?」

「・・・」


あれ?さっきまでのちりちりした感じがしない。すっごく、満ち足りた感じで、ゾロがおれを見てる。

なんか、いいな、こんなあったかい感じの居心地のよさ。

静かで、2人きりで。

だけど。

こうしてるといろいろ考えちまう。これからのこと、やっぱりこの空の下のどこかにいるあの人・・・シャンクスのこと。


体温が、ふいっと移動してきて。

ゾロがそっとおれの後ろに寄り添うように腰をおろしてきた。


・・・アノヒト二オイツキタイ・・・コレハイケナイカンジョウナノ?アキラメナキャイケナイノ?・・・


大好きなシャンクス。

今でも忘れられないシャンクス。

何がきっかけでシャンクスと「友達」になったんだろう。


シャンクスの海賊船の、竜の形の舳先がおれのお気に入りの場所だった。

そう言ったら、シャンクスは「俺もだ。気が合うな。」と笑った。

時々、そこにまたがって船の先に広がる海を見るんだって。

シャンクスに、気が合うって言われたのがうれしかった。

シャンクスと舳先に腰を下ろしていろんな話をした。

あれは・・・ちょうど何度目かの航海から帰ってきたばかりの時。センリヒンだとかいう、きれいな宝石をシャンクスは光にかざして見てた。

宝石たちは、本当にきらきらしててシャンクスの手の中でまぶしく光った。

シャンクスの語る冒険、そしてそれの証拠とも言える宝石。

なかでも、おれが気に入ったのは、サンゴとか真珠とか、そういう海が作った、石たちだった。


「海の中にはもっと、これよりも宝石みたいな魚がいっぱいいるぞ。」

シャンクスがそれこそ海みたいに青い青い宝石のついた首かざりを太陽の光にかざしながら言った。

「ほんと?!」

「ああ。生きてるから、もっときれいだ。それに、真珠やサンゴだって生きてる。海の中でしか見れないぞ?」

「おれ、かなづちだし。いいよ、別に見なくたって。このほーせきだってきらきらしててきれいだし。」

「もったいねーな。それって損してると思わねーか?」

シャンクスは心底もったいない、って顔でいたっけ。

あれは、おれに、泳ぎの練習、させようとしてたんだろうな。

今となってはもう、そんな海の底なんて見らんない光景だろうけど。


おれも航海に連れていけ、とだだをこねたら、「あと10歳年とったら考えてやるよ」とシャンクスは言った。

絶対に連れていく、じゃなくてかもしれない、だったのにおれはすっごく腹が立った。

いつだって、「かも」で確定じゃなかった。


・・・ドウシテ?オレノナニガダメダッタノ?・・・


近海の主からおれを救い出してくれたとき、頭の後ろを支えていてくれた手の感触。

それから岸に着くまで抱き支えてくれていた腕は力強くて本当は他のものを望んでいたのに、「友達」だと言った。

「シャンクス!腕が!」

そう泣き叫んだおれに・・・。

「友達」だといった。「無事でよかった」って。何の見返りも代償も期待しない、「友達」。

どうして怒らないんだ?ねえ、それ以上は?

親兄弟でもなく、恋人でもなく。

変だよ・・じゃあなんで、おれをいつも「対等」に扱ってくれてたんだ?

どうして、利き腕を奪う原因になったガキにやさしくしてくれてるんだ?


・・・ドウシテユルシテクレルノ?・・・


償いたいのに。

その時はガキだったしどうしたらいいのかわからなかった。

認めたくないけどただ、自分がガキだってことだけが悪いんだとそれまでは思ってた。


その時直感した。

この人はおれのものには、仲間にさえも、なってくれるつもりは、ない。

出港の日。

「あんなに連れてけってうるさかったのに。」

シャンクス、そう言って笑ってる、けど、どこかほっとしてるだろ?

それくらいおれにだってわかる。

絶望感。言葉で表現するとしたらそんな感じ。でもそれだけじゃ言い切れない。

別れを言う一瞬の間にその考えは閃いた。


だったら・・・、だったらおれがシャンクスを超えてしまえばいい。

そうしたら、こんな痛みなんてなくなるし、あの人だっておれに対して違った気持ちをいだいてくれるかもしれない。

開き直りだって言われたって。

そう思うしかないじゃないか。

「おれはいつか、この一味にも負けないくらいの仲間を見つける!海賊王になる!」

だから、もう「仲間」にはならなくていい、と言ったんだ。

シャンクスは笑って、麦藁帽子をおれにばふっとかぶせて・・・そして行ってしまった。


夢は”海賊王”になること。そしてシャンクスとの再会。

今だったらわかる。

その時におれがあの人に求めていたものがなんだったのか。

それからシャンクスがおれに求めているものがなんなのか。

それは・・言葉にしたらきっと本当に形になってしまうから。

いつか再会するまでは考えないようにしてる答え。


・・・イカナイデ・・・オレヲオイテイカナイデ・・ツレテイッテ・・・


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ああ、夜の中でゾロがじっとおれを見てる。





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