”CAROL”(前編)
「おれは行かねえ!ゾロだけ行ってこい」
「・・・おい、今日で3日目だぞ?どうしたってんだ?」
「別に。おれのジジョウってやつだ!」
いつもは真直ぐに見つめてくる黒い瞳はゾロが見つめると浮動して、すい、と逸らされてしまう。
何かあったか尋ねてみてもその理由は語られない。
誘っても頑として動かず、唇を一文字に引き結んだまま。
または「おれのジジョウだ!」としか答えず一人で行ってこいの一点張り。
とある港町にゴーイング・メリー号が停泊して早3日。
そして上記のような問答をルフィとくり返すのはこれで3度目。
寄港するたびに、あれほどいつもうずうずして待切れないように下船してたのに。
一体、何が原因かゾロには皆目見当がつかなかった。
ゾロの、胸と胃のあたりで何かがむかり、と頭を擡げた。
(何だ?)
きっかけは、ほんの些細なことであるが。
物資調達という名の3日に渡ってのたった1人の大がかりな荷運びにもうんざりしていたからかもしれない。
原因のわからない胃のムカつきに、つい口調もきつく意地悪になった。
「そうだよなあ。まさかお前に限って怖気づいて上陸できねえってことはないしなあ?」
わざとらしく口元と語尾をつりあげてゾロがそう言うと。
「それは・・・何でもねえったら何でもねえ!ゾロにはカンケイねえ。」
むっと口をとがらして反論しようとするルフィだったが。
はっとしたように慌てて否定する。
(誘導尋問にものってこねえか。こりゃ相当、根が深いな。)
ゾロはそう思った。そして。
”カンケイない”・・・ルフィのその一言は最後通牒と同じ意味を持っていた。
「・・・そうか。」
片側の唇を歪ませ。
ゾロは先程から自分を呼んでいるコックの厨房へ船板を軋ませながら大股で向かった。
「あ・・・ゾロ?」
「別に、お忙しい船長殿の”事情”を邪魔する気はねえよ。悪かったな。おれ一人で行ってくる。」
後ろ向きで、ひらひらと手を振ると。
少し焦ったような声でルフィが声をかけてくる。
そして背中に何か言いたげな視線を感じたが無視した。
キッチンに。
入るとまずふわりと暖かな空気と匂いに迎えられる。
「寒いから早く閉めろ、マリモ頭!」
何やら仕込み中でことことと音をたてる鍋の蓋、その下には煮える鍋が良い匂いを漂わせ、コックがこちらに青いシャツの背を見せながら忙しそうに立ち働いている。
そのサンジが給仕したであろうスパイシーな香りの紅茶を上品に傾けつつ待ち構えていたナミにお買い物リストなるものを示され。
「買うものはこれよ。野菜なんかは明日、出港直前にこの船まで届けてくれるように言うのよ。いい?1品たりとも欠けちゃダメよ!?」
「へいへい」
「・・・返事は一回!そうそう、お金はちょっと多めにしといたから余ったら何か好きなもの買っていいわよ。お酒でも何でも。」
チェックし終わった調達リストと財布をゾロに渡すと、ナミはオレンジ色の髪を揺らせながらにこりと微笑んだ。
普段、どういった時にこの航海士が砂糖菓子のような笑みを浮かべるか知っていたゾロは気味悪く思いながら尋ねる。
「おい・・・どうしたんだ?・・・どこか身体の具合でも悪くしたか?」
お前、ナミさんに失礼だぞ!?と血相を変えて怒鳴るコックを手で押しとどめ、気を悪くした風も見せずにナミは答えた。
「失礼ね!明日は年に一度のお祭りじゃないの!だから特別。」
・・・だったら借金を帳消しにしてくれ・・・というゾロのお願いは空しく一蹴された。
渡されたリストを手にキッチンを出ようとしたゾロはふと、ルフィのことをナミに聞いてみようか、と思った。
唯一、何か知っていそうなのはナミだ。
が。
振り返ったその先で。
サンジくん、お茶のおかわりいただけるかしら?、ハイvナミさん!、あら、まだいたの?、気づいてシッシッとまるで犬でも追いやるようなコックの手つき。
いつもの主従関係のような光景が展開されるのを見て。
これはだめだと思いとどまった。
彼女に問いただしたところで多分、暖簾に腕押し状態でかわされてしまうのがオチだろう。
そう思ったからナミに聞くのはやめた。
また、サンジはサンジでこういう時まるでの悪代官に追従するどこぞの問屋のごとくに調子を合わせるのを知っているからこちらも聞くのをやめた。
男部屋から自分用のコートを取り出してばさりと羽織り、3本の刀を腰に差すとゾロは舳先に向かう。
鞘走らないように刀の鯉口をそれぞれしっかり押さえ。
縄ばしごを降ろすなどという面倒くさい作業を抜きに、下の大地へ一気に跳躍した。
帰りは錨についた綱を伝って昇ればいいだけだ。
出掛けにまた視線を感じて見上げると、ちょうど上甲板からじっとゾロを見ているルフィと目があった。
下から見上げたルフィはひどく小さく頼りなく見えた。
さすがに、それを見てゾロも思うところがあって口を開きかけた。
が。
あきらかに何か隠しているらしい様子で、すいと視線を外され。
(勝手にしやがれ)
ゾロは船に背を向けて波止場の石畳を街に向かって歩き出した。
「・・・いってらっしゃい・・・」
微かに聞こえた声はルフィのものだったような気がしたがそれも風に散らされて消えた。
**********
城塞に囲まれ、15分もあれば街の端から端まで歩けてしまいそうな時計台のある小さなその街はひどく風変わりだった。
この2、3日で方向音痴のゾロでも容易に把握できるような小さな小さな街。
こじんまりとした石造りの町並みはどこかノスタルジックで、中世的の面影を残していて。
商店街ではそれぞれの店先から細い鉄細工のかわいい看板が下がっていて折からの風に、きい、きい、と軋む。
空はちょうど今のゾロの気分をあらわしたかのような灰色の曇天。
港からの道を歩き城門を過ぎ、ゾロは開けた街の中心の広場へ差し掛かった。
リストと家々の軒先に下がる看板を照合し、これだろうとあたりをつけた店に入る。
昨日までであらかた、積み荷は買い終えた。
今日の分の買い物は乾物屋を兼ねた青果店で済ませた。
傷みやすい野菜類ばかりか今日の分の残りの日用雑貨などもサービスだといって店主がメリー号まで届けてくれることになった。
手持ちぶさたにしばらくそのまま歩く。
寄港した街で三日間も一人歩くのは初めてだった。
空の灰色と建物の茶色味を帯びた灰色。
それ以外に目に入ってこない。
冷たい風が首のあたりを掠めて、ゾロは今さらながらに寒さに気付いてコートの襟元を引き上げた。
いつもだったら真冬の寒さもその鍛えた身体にはこたえないはずだったが。
ひどく、自分の中もがらんとして風が吹き抜けているような心持がした。
不意に。
このまま船を降りてしまったら、という考えがひやりと胸を掠める。
冷え冷えとしたその考えは暫くゾロの心に力を吹き込み暴れまわった。
本当に、他愛のないケンカにもならないケンカが原因だったはずなのに。
けれど”降りる”と告げたらきっと誰もが必死に止めるだろう。
そう、普段諍いが絶えないコックも口煩い航海士も。
もちろん、ルフィが必死の形相で止める様は容易に想像できて。
その様子を想像すると。
ゾロの切れ長の目は更にすううっと細まって剣呑さを帯び、自然口元が昏い笑いに歪んだ。
壊せるものを持ち、それをいつでも壊すことのできる暗い喜び。
けどそれはちっとも心を晴らすことはない。
「・・・ちっ!」
ひどく荒んだ気分が増長されてゾロは舌打ちした。
らしくない。こんなことを考えるなんて、ルフィと一緒に旅をするようになってから一度もなかった。
ふと思い当たった。
もしかしてずっとその行為をしていないせいでもやもやするのかもしれない。
金ならある。
ゾロはすっかり馴染みになってしまった街の構造を頭に描き、広場から続く北側の一番細い道に足を踏み入れた。
その一番突き当たりに娼館があるのを、迷った2日の間に発見した。
まさか立ち寄ることになるとは思わなかったが。
別に女なんてそれなりであれば誰だっていい。
一緒にいる仲間達はそれぞれに魅力的な容姿の持ち主ではあっても後々面倒だし責任なんて真っ平だ。
その場限りの女で十分。
その場限りの女だとしてもちょっとでも可愛いと思い、触れれば衝動が起こり行為は可能になる。
女の、脆そうに見えて実はしたたかな弾力ある肉に押し返され、その部分を濡れた熱い肉襞に包み込まれ、そして征服欲を満たして溜まったものを吐き出す。
一時の娯楽。
ゾロにとってはそんなものだ。
娼館のドアには”祭りの期間中につき休業”と書かれたプレートが下がっていた。
カランカランと風に揺れるその音が妙に間抜けていて。
つまり、生憎休みだったということだ。
(祭り?)
そんなものあったか?と首を傾げながらゾロは今来た道をまた中央広場まで戻ってきた。
ふとショーウィンドウを見ると、そこには不機嫌そのものを絵に描いたような男が映っていた。
体格がよく3本刀を差した。
眉間に寄せられた皺に底光りして目が合った人間を震え上がらせそうな緑の双眸。
まるで人を斬った直後のような。
それがあまりにも飾り付けられたショーウィンドウに合わないのを見て少しゾロの気分はおさまり、周囲を見る余裕も出てきた。
見れば確かに街は祭りの雰囲気に包まれていた。
商店街のビロードの飾り幕や店のガラスのデコレーションされた文字から察するに年に一度の生誕祭らしい。
(そういやナミも言ってたな。)
硝子ケースの向こうに飾られたツリーは、カラフルなリボンや雪だるまや天使やボール、ありとあらゆるわくわくさせるものを満載にして重たそうだが誇らし気だ。
燦然と輝く星や天使を象ったイルミネーションは控えめに光り街の雰囲気を一層おとぎの国めいたものにしている。
冷えた空気のせいできかなくなった鼻にも店先から、ふわっとおいしそうな匂いが忍び寄る。
人々は教会で祈りを捧げるため、または親しい人たちとすごすパーティーに急ぐため、どこかうきうきした足取りで。
人通りを避けた物陰では2人にしかわからない微笑を交わしながら恋人達が身を寄せあっている。
風船を持った子供達がはしゃぎながら白い息をはいて駆けていく。
楽しさと幸せに直結する声が、音が、石造りの街に反射してそれが寒気さえも柔らかく変えていく。
そして口々に交わされる祝いの言葉。
全然、今まで目に入らなかった。
そして目に入った瞬間思った。
(ルフィに見せてやりたかったな・・)
と考えたゾロの顔は不覚にも緩み、どこか温かい気持ちがこみあげてくる。
(は、冗談じゃねえ。)
が。すぐ、またぶ然とした顔つきにもどった。
せっかくの誘いを断りやがって、とそれは半ば八つ当たりのようでもあったがすべてルフィが悪いのだ、と強引に結論付けた。
いつからだったか。
寄港するたびルフィと散策するようになったのは。
『ゾロ、探検に行こう!今すぐ行こう!』
『そう急くな。ちゃんと一緒に行ってやるから。』
『ゾロ、おそいおそい!』
そうゾロを見上げてねだるルフィと2人で。
賞金が一気に跳ね上がった船長の護衛だという名目で2人で街を歩く。
ただそれだけ。
こんな風に色とりどりにデコレーションされた町並みを見たらさぞかしルフィは歓声をあげてはしゃぐことだろう。
店先に駆け寄り、歓声をあげ、そして目を輝かせながら自分に駆け寄ってきて・・・。
目に浮かぶようだ。
ゾロ、ゾロ、お前も見てみろよ、すごいぞ!!、と珍しいものを見つけるたびにその興奮を上手く言葉にできない船長が自分を呼ぶ。
そのきらきらした2つの瞳、自分の名を呼ぶときのもっと幼く聞こえる響き、ぐいぐい自分を引っ張っていく腕。
自分よりも小さな指が、自分の関節が太くごつい指に絡みつく。
おいしい、楽しい、うれしい、子供のようにそれを連発して大声で笑って。
リアルに思い出されるほどに当たり前だったその触感。
ただそれだけなのに。
賞金稼ぎをしていた昔だったら。
野望のために、一直線に。
面倒なことがふりかからないように、そして邪魔をする奴には容赦なく、人ごみをすり抜けていくような生き方、それが人生だと思っていた。
港街につくたびにすることは、賞金首の引き渡しと換金、そして酒を呑み、女を抱く。
いつからか、それをしようと思わなくなった。
(なぜこんなに苛つくんだ?)
考えてみれば別にルフィは自分にとって船長で。
確かにかけがえのない仲間ではあるがそれ以上でもそれ以下でもなく。
何か勘ぐっているらしい航海士やコックや王女には悪いが期待されるような事など何ひとつない。
ただ・・・
**********
考え事をしながら歩いていたゾロは何かが地面にばらばら落ちる音と年輩の男の嘆きにふと目をあげた。
その視線の先ではぶつぶつ言いながら腰をかがめて散らばったりんごを拾う老人の姿があった。
放ってもおけず、溜め息をついて助けを申し出る。
「おお、すまんな。」
思わぬ助けに気を良くした老人はにかり、と歯を見せて笑い、2人は30個あまりのりんごをかじかむ指で苦労しながら集め終わった。
が。
「ああ、これはもう、駄目だな・・・。」
石畳に落ちた際に付着した汚れをゾロが服の袖で拭ったりんごを老人に返そうとしながら見ると。
りんごを入れていた網袋は大きな裂け目が出来、とても用を足せる代物ではなかった。
「家、どこだ?そこまで運ぶのを手伝おう。」
仕方なく、ゾロは腕いっぱいのりんごを抱えたまま老人を家まで送り届ける羽目になった。
老人の歩調に合わせて、ややゆっくり目に歩くゾロに老人は上機嫌で次々話し掛けてくる。
「いやいや、本当に助かった。ところで、こんなに気もよくていい男なんだ、今日の祭りを一緒にすごすイイ人を選ぶのに困らんかね?」
「別に、そんな奴いねえよ。」
しかも、ゾロにとっては今一番ありがたくない種類の話題を振られ。
ゾロは憮然として答えを返す。
「それはいかん!」
どことなく南方系で陽気な顔立をした老人は呵々大笑した。
「若いもんがそんなことじゃいかんぞ。これでもワシも若い頃はもう、引く手あまたでえらく困ったもんじゃ。」
「・・・じいさん、そりゃ誇大広告ってやつじゃないのか?」
しかし、いったいどこまで歩くのか。
歩いているうちにミルク色の靄が出てきて次第次第に濃くなっていく。
それに連れて輪郭も淡くぼやけていく街並みに、狭い街のはずなのにとゾロは訝しく思った。
「もうすぐじゃ。」
とそんなゾロの心を見透かしたように言う老人と共にどれだけ歩いたか。
距離の感覚もなくなった頃、ようやく老人の家に着いた。
そこは工房のような雰囲気の建物で、老人は自分がデザインしたのだと、鼻高々に言った。
「まあ、あがって茶でも飲んでいってくれ。」
「いや、いい。あんまり遅くなれないんでこれで失礼させてもらう。」
老人の薦めを固辞し、戻ろうとしたゾロに老人はそれじゃ、何もないが御礼だ、と先ほどのりんごを1つ手渡した。
「ああ、悪いな。」
礼を言ってゾロはりんごをコートのポケットにしまった。
「あ、ちょっと待っててくれ!」
そうして歩きだそうとしたゾロの背中に老人は思い出したようにまた声をかけた。
ばたばたと家の中に入り、戻ってきた老人は何やら小さな鉢に植わったものをゾロの胸元に押し付けた。
「これも持っていけ。」
ゾロの無骨な大きな手のひらにすっぽりおさまるサイズのその植木鉢には花が植わっていた。
赤と緑の、この街でよく見る葉だか花だかわからない種類だとゾロは思っていたが。
よくよく見れば街のあちこちで見かけたものと違い、赤い部分の葉がくしゅくしゅと縮れて花のようにも見える。
「変わった花だな。」
「ポインセチアローズというんじゃ。葉が縮れてバラのように見えるじゃろう?品種改良に改良をかさねて今年初めて成功した。」
本当は、知り合いの墓前に手向けるように作った種類だと老人は言った。
「奴らのイメージが、赤と緑だったからな。あんたも見ただろう?この街のあちこちでこれと似たような花を?墓参りにこの街に来た仲間の1人の”出来ればずっとお墓の前にも飾っておけるよう、花だったらいいのに”という一言から生まれたみたいなもんだ。」
それじゃ亡くなったのは2人だったのか?というゾロの問いに老人は淋しげに笑った。
懐かしさ、憤り、幾ばくかの風化されつつある悲しみ、そういったものをすべて含んで。
「まったく、無茶をするだけしてあっけなく逝ってしまった。とんでもない奴らだったよ。」
なにしろ奴らが欲したのは世界だったからな。
「バカな奴らだったよ・・・何も自分で生き方狭めんでも・・・」
ひとつのことをずっと追い求め、拘って生きる生き方。
それは素晴らしいものだったのだろうが、その生き方は自身さえも焼き尽くすようで。
「生きてさえいりゃ、何だってできる。そう思わんか?」
「それは・・・」
どうかな?とはゾロは言えなかった。
普段だったら一笑に付すようなことなのになぜかこの老人には、そう言う気になれなかった。
何故だろう?
それは、ひどく真実味があったからかもしれない。
「あ、すまん、年寄りの愚痴じゃ。」
「いや・・・」
つい、重い話をしてしまったのう、引き止めて悪かったと申し訳なさそうに笑う老人は、ふと、そういえば、とゾロを見上げた。
「お前さんにも仲間がいるのかい?」
「ああ、まあいるこたいるが・・・。」
「当てて見せようか?大方、仲間と・・それも一番大切な誰かとケンカ中じゃろう?」
「・・・」
「当たったみたいじゃな。さっき、まるで回りなんて目に入らないというようなおっそろしい形相で歩いとったからな。」
意地なんてはらないほうがいいぞ?謝れるうちに謝っとけ・・・その老人の言葉はひどく素直にゾロの心に染み渡った。
「何も小難しく考えることなんてないぞ?簡単なことじゃ。」
返答に困って眉間に皺をよせ、難しい顔をするゾロに。
重ねて老人は言う。
「その花を見て誰を思い浮かべる?そのリンゴを見て誰にあげたいと思う?あげたいと思った人間が、自分にとって一番なんじゃ。そんな人間といつまでもケンカしてるなんてバカバカしいと思わんか?」
真っ赤でぴかぴかで齧ったら甘い汁がじゅうっとにじみ出るようなりんご。
ルフィにあげたらどんなに顔を輝かせて受け取るだろう?
そして子供のようにおいしそうに目を細めて食べることだろう。
ビロードみたいな、赤い花と緑の葉を持った小さな鉢植え。
ルフィにあげたらどんなに珍しがられるだろう?
きっと、目をまん丸にして、はしゃぐことだろう。
そう、想像するだけでひどく愛しさがこみ上げてくる自分にゾロは驚いた。
その気持ちを言葉にすればいいだけじゃないのか?
そう言って、覗き込むような仕草をする深くてやさしい双眸を、ゾロはいつかどこかで見たような気がした。
じゃあな、グッドラック!とその年の人間にしては小粋な仕草で老人に送り出され。
老人に手渡された花を手に持って歩きだしたゾロの背中にかけられた声はどこか遠くからかけられたように響いた。
「じゃあな、未来の大剣豪・・・」
はじかれたようにゾロは振り返った。
「あんた一体・・・」
何ものだ?と問いかけたが既に老人は家の中に戻ってしまったらしくかけた声は行き場を失い寒寒とした風だけが吹きすぎていった。
・・・あれから、どうしても尋ねてみたいことがあって何度も引き返してみたが老人も、その家も見つからなかった。
ひどく不思議な気分でゾロは考えた。
(・・・仲間、か・・・)
夢は、ひとつだけしか叶えられないものではない、ということをルフィと出会ったあの日に知った。
そして、あの日に既に決めていた。
いつか必ず大剣豪になって、自分だけの海賊王の隣に立つ、と。
初めて敗北を知り、死の淵に立ったとき、負けた自分に憤り、悔やんだ。
そして、常に死は自分達のすぐ傍にあるのだと初めて知った。
今更ながらに。
自分の中にこれほどの感情があったのかと驚いた。
ルフィに出会わなかったら生涯知ることはなかったかもしれない。
でも、この感情は・・・
6666HIT嵩虎様リクで『天然小悪魔ルフィと振り回されるゾロ』・・・思いっきり違ってないか!?
実は、これ、クリスマスに出そうと思ってたやつで・・・はなはだしく季節が・・・いいんだ、まだスキーできるもん。桜だって吹雪って言うだけあるもんv
しかも、2話にわたっちゃってるよ・・・ごめんなさい。
ポインセチアローズは、去年のクリスマスに有○町で初めて見ました。かわいいんですよー、葉っぱがくしゅくしゅでお花みたいで。
・・クリスマスキャロルを下敷きにしてみたんですが、何かなあ・・・。すいません、続きます。
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