雪の女王


<このお話を読まれる前に>
このお話は、アンデルセン童話集「雪の女王」(大畑末吉氏・訳)を参考にゾロル風味を加えたパロディです。

登場人物の配役につきましてはちーちゃんの独断です。かーなり恐れ多いものではありますが、ご理解いただける方のみどうぞ。

1.

あるところに、一人の悪魔がいました。
ある日のこと、その悪魔は大変なごきげんでした。
なぜかというと、鏡を一つ、つくったからなのです。
その鏡というのが、ただの鏡ではなくて、なんでもいいものや美しいものがこの鏡に映りますと、たちまち縮こまって、ほとんど何にも見えなくなってしまうのです。
そのかわり、役に立たないものや醜いものなどはよけいにはっきりと映っていっそうひどくなるのでした。
また、人間の心の中に何かいい考えや信心深い考えが浮かんできますと鏡の中にはしかめつらが現れるものですから、この悪魔は笑わずにはいられませんでした。
悪魔はこの鏡をさかんに持ち回ったものですからこの鏡に映ったことのない人間はいなくなってしまいました。
そこで今度は天へ上っていって神様や天使をからかってやろうととんでもない考えを起こしました。
鏡を持って高く上っていけばいくほど、鏡の中のしかめつらはひどくなり、ぶるぶるとおそろしく震えだしました。
と、とうとう悪魔の手からはなれて、地上におちて何千万、何億万、いえそれよりもっとたくさんの細かい細かいかけらに砕けてしまいました。
こうして、今までよりももっとたくさんの不幸を世の中に撒き散らすことになったのです。
それというのもその鏡のかけらの一つ一つにはもとの鏡のもっていたのと同じ力があったからです。
小さなかけらが目の中に入った人は物事があべこべに見えたり、悪いところばかりに目をつけるようになりました。
かけらが心臓に入った人も何人かおりました。
そうするともっと恐ろしいことに、その人の心臓は一塊の氷のようになってしまうのです。
これを見て悪魔はお腹の皮がよじれるほど笑いました。
家の外にはまだまだ、多くの鏡のかけらが空中を飛んでいました。


**********

大きな街に、2人の子供がいました。
この2人は兄弟ではありませんでしたが、まるで本当の兄弟のように仲良しでした。
2人の家はすぐ隣り合った屋根裏部屋にありました。
そして小さな窓が両方の屋根裏部屋に向かい合っていて、雨樋をひとまたぎすれば、こちらの窓から向こうの窓に行くことができました。
両方の家の思い付きで、窓の外に雨樋をまたいで大きな木の箱をおいて、そこに食べるための野菜や小さなバラの木を1本ずつ植えてありましたので、まるで花の凱旋門のようにバラの木は見事に生い茂っていました。

2人の子供の名前はゾロとルフィといいました。
ゾロはルフィよりも2歳年上でした。
2人は夏の間はひとまたぎで互いの家同士を行ったり来たりできましたし、屋根の上に出てバラの木の下にある小さな腰掛けにかけて楽しく遊びました。
冬になると、雪が降って窓ガラスもすっかり氷で覆われてしまいますので、たくさんの階段を降りて、またたくさんの階段を昇ってお互いの家まで行かねばなりませんでした。
そうして、2人の子供はルフィの年とったおばあさんが話す面白いお話に夢中になって耳をかたむけるのでした。

ある日の夕方、ゾロが窓際の椅子の上に上がって外を覗いていますと、雪のひらの中でも一番大きなのが、花の箱の縁に乗っかりました。
すると、その雪のひらはみるみるうちに大きくなって、とうとう一人の女の人になりました。
ドレスはとても薄い薄い白い紗で出来ているように見えましたが実は何百万という、星のようにきらきらする雪のひらでできているのでした。
そしてそのほっそりとした身体は氷で出来ているのでした。
まぶしくてきらきらする氷でしたがそれでもその人は生きているのでした。
目は、明るい星のように輝いていますが、鋭くて冷たいものでした。
女の人は窓のほうに向かってうなずきながら手招きしました。
ゾロはびっくりして椅子から飛び降りました。
その時、なんだか窓の外を一羽の大きな鳥が飛び去ったような気がしました。

・・・・やがて雪解けになり・・・・春がやってきました。
お日様は輝き、緑の草花は芽吹き、ツバメが巣を作りました。
そして、窓が開かれて、ゾロとルフィはまた、高い屋根の上の自分達の小さな庭にすわって遊びました。
バラの花は、この夏は他に類を見ないほど美しく咲きそろいました。
ルフィはバラの花のことを歌った讃美歌を一つ覚えました。
そして、歌の中にバラの花のことが出るたび、ゾロと2人で手入れをしているバラの花のことを思い浮かべました。

「ルフィ、またあの讃美歌を歌ってくれるか?」
「ゾロもあの歌、気にいってくれたのか?じゃ、歌う。んで、ゾロも覚えて一緒に歌おうな!」
そして、ルフィはゾロにそれを歌って聞かせました。
ルフィの声は澄んでいて、音程もしっかりしてよく響いたのでゾロはルフィの歌う声が大好きでした。
何度聴いても、飽きることはないのでした。
歌い終わると、ゾロは拍手をして、ルフィの黒い髪をくしゃくしゃっと撫でました。
そして、ルフィの頬に軽く唇をふれました。
それは、まるで兄弟がするような温かくて親しみのこもったキスでした。
ルフィはくすぐったそうに笑うと「ゴセイチョウ、ありがとう。」と言いました。

何という楽しい夏の日々だったのでしょう。
バラの木の下からお日様を仰ぐと、まるで碧の光の中にいるようでした。
庭仕事の手を止めて、ゾロがルフィのほうを見て笑っています。
その髪も目も、光を受けて透けるバラの葉のように碧に輝きました。
ゾロがルフィを大好きなようにルフィもゾロが大好きでした。
2つ上のゾロは庭仕事のこと、虫のこと、いろいろな街のことをよく知っていました。
それに腕っぷしも、街の子供たちの中で、一番強いのでした。
時々ケンカをしても2番目のルフィはどうしても勝てず、くやしい思いをしましたが、すぐにお互いそんなことは忘れて仲直りしてしまうのでした。
ルフィはゾロとずっとずっと一緒にいたいと思いました。
そして、バラの花もいつまでも、いつまでも咲きつづけようとしているかに見えました。

ある日、ゾロとルフィはバラの木の下に座って、動物や鳥の絵本を見ていました。
その時・・・教会の大きな塔で、時計がちょうど5時を打ちました。
・・・ふと、ゾロが言いました。

「痛・・・!胸のところがちくっとした・・・今度は目の中に何か入ったみたいだ。」
ルフィはゾロの首筋を抱いて、おでこをくっつけるようにして、その目を覗き込みました。
「どこだ?おれが取ってやるから、じっとしてろ。」
ゾロは何度もまばたきをしましたが、何も見つかりませんでした。
「もう、出てしまったんだろう。」
と、ゾロは言いました。
ところが、出てしまったのではありません。
それこそ、あの悪魔の鏡から飛び散ったガラスのかけらのひとつだったのです。
ゾロの心臓に、そのかけらが一つ入ったのです。
まもなく、ゾロの心臓は氷の塊のようになってしまうでしょう。
今は痛くありませんが、それは確かにそこにあるのでした。

「何で泣いてるんだよ?」
ゾロは尋ねました。
ゾロを心配するあまり、ルフィの目にはうっすらと涙が浮かんでいたのです。
自分がけがをしたぐらいでは絶対に泣かないルフィでしたが、自分の大好きな人たちが苦しんでるとき、何もできない自分や相手の痛みを思って涙がその大きな黒い目に浮かぶのでした。

「・・んだよ、そんな顔しやがって。おれはもう、何ともねえって言ってるだろ。」
なぜか、どうしようもなく、ゾロはいらいらしてきました。
「だいたい、何でこんなままごとみたいなことをやってんだよ。」
こう言って、足で木の箱を蹴りました。
更にバラの花もむしりとってしまいました。
「ゾロ!何するんだ!!」
とルフィは叫びました。
ゾロはそんなルフィの様子を見て、
「チッ」
と舌打ちすると、自分の家の窓に入って鍵をかけてしまいました。

「どうしちゃったんだよ・・ゾロ・・・。」





続きます・・・。

冒頭にも書きましたように、パロディで『雪の女王』を参考にさせていただいてます。(純粋なファンの方、怒らないでくださいね(汗))
しかし・・兄弟でキスするのか?どこの国だ、一体?ってなつっこみを自分でいれたくなりますね・・・。

2.へ