雪の女王



2.

後でルフィが絵本を持って行きますと、ゾロはそんなものは赤ん坊の見るものだ、と言いました。
また、ルフィのおばあさんをはじめ、みんなに反抗的な態度をとるようになりました。
それは、みんな目の中にはいったガラスのせいであり、また、心臓に突き刺さったガラスのせいだったのです。
ゾロを心から大好きなルフィをからかったりして邪険にあつかうようになったのもそのためだったのです。

遊び方も今までとはすっかり違ってたいそう、分別くさくなりました。
・・・それから季節は流れて・・・ある雪の降りしきる日のことでした。
ゾロは大きなレンズを持ち出して、上着のすそを広げて、その上に雪のひらを乗せました。

「ルフィ、このレンズを覗いてみろ。」
とゾロは言いました。
見ると、雪のひとひらがずっと大きくなって、きれいな花のように、あるいは六角形の星のように見えました。
それは本当に美しいものでした。
「なあ、ずいぶんときれいに出来てるだろう?本当の花なんかよりずっと面白いぜ。どれひとつだって間違ったとこはないしな。ただ、溶けさえしなければいいんだけどな。」

そんな風にゾロがやさしいときもありました。
また、他の子と遊ぶからと面倒くさそうにルフィを追い返すときもありました。
そのくせ、自分以外の男の子がルフィをこづいたりしようものなら、ゾロは容赦なくその子を殴ることさえありました。
冷たいと思えばやさしい、笑っていたかと思うと怒り出す。
ルフィにはどうしてゾロがそんな風になってしまったのか皆目見当がつきません。
言葉は不思議だ、とルフィは思いました。
見えないのに心の中に入ってきて、突き刺さります。
ルフィの預かり知らないことでしたが、それはまるでゾロの心臓に突き刺さっているガラスのかけらのようでした。

それから少し経った日。
ゾロは大きな手袋をはめ、橇を肩にかついて外に出ました。
そして、ちょうど出会ったルフィの耳元に顔を寄せて言いました。
「みんなが遊んでいる広場で橇に乗ってもいいって誘われたんだ。じゃあな。」
それを聞いたルフィは叫びました。
「おれも行く!」
「ばーか、お前みたいなガキにはまだ難しいって。・・さっさと家に帰れ。」
案の定、ゾロは鼻で笑いました。
「ゾロだっておれと2つしか違わないじゃないか!・・・だったらおれだってオトナだぞ!」
ルフィは負けずにゾロのコートの袖を握りしめました。

「ふーん・・・オトナ、ね。じゃあ、オトナかどうか、試してやろうか。」
ゾロは何かを思い付いたらしく、面白そうに笑いました。
そんなゾロの様子を見て、ルフィはちょっと怖くなりましたが、頑張って頭半分高いところにある冷ややかな光の目を見上げていました。
と、いきなり、きつく顎をつかまれました。
驚いて何か言いかけたルフィの口は、次の瞬間、ゾロの口にふさがれていました。
開いたままのルフィの唇の間にゾロは舌を滑り込ませ、ルフィにはめちゃくちゃに思える動きで我が物顔に動きます。
「・・・?!・・・むー・・・!(何・・・!?)」
ルフィの頭の中は真っ白になりました。
ルフィは目をぎゅっと閉じて必死に震えてくるのを我慢しました。
何故、こんなことをするんだろう。どうしてゾロはこんなにおれを見る時だけいらいらしてるんだろう。
ようやく解放されたルフィは濡れた目をぱちりと開けました。

混乱のあまり潤んでしまったルフィの目が、冷静に観察していたゾロの碧の目と合いました。
その時、ゾロの心臓がちくりと痛みました。
「・・・!?(何だ・・・!)」
それは、鏡のかけらが心臓で動いたせいでした。
半ば凍てついたゾロの心臓が必死に鏡のかけらを押し出そうとしているのでした。
ゾロの強い心の力のせいで、ゾロの心は完全には氷のように冷え切ってはいなかったのです。

「・・・家に帰れ」
言い捨ててルフィを振りほどき、ゾロは橇をかついだまま、広場へ行ってしまいました。
かわいそうに、取り残されたルフィは、自分の何がいけなかったのだろうと深く悩みました。

広場では乱暴な子供たちが、時々、自分の橇をお百姓の橇に結び付けてかなり遠くまで一緒に滑っていました。
そうすると、面白いようによく走りました。
こうしてみんなが楽しく遊んでいますと、そこへ一台の大きな橇がやってきました。
それは全体が真っ白に塗ってあってその中に白い毛皮にくるまって白い帽子をかぶった人が座っていました。
その橇は広場を回りました。
ゾロは素早く自分の小さな橇をそれに結び付けました。
するとすぐ、一緒に滑り出しました。

橇はだんだん速くなって瞬く間に隣の通りに入りました。
その時、橇を走らせていた人が振り返ってゾロにやさしくうなずきました。
何だか2人は前から知っているような気がして、それからゾロが橇をほどこうとするたび、その人が振り向いてうなずくので、ゾロはまたそのまま座ってしまうのでした。
そのうちに2人は街の門を抜けてしまいました。
雪はますます激しく、渦をまいて降ってきました。
橇はどんどん、飛ぶように走っていきます。
ゾロは大声をあげましたが誰も聞いている人はありません。
雪のひらはだんだん大きくなって、しまいに大きな白い鳥のようになりました。
それが両側に退いたかと思うと橇が止まりました。
そして橇を走らせてきた人が立ちあがりました。
見れば毛皮も帽子も雪でできている、背の高い、輝くばかりに白い女の人でした。
この人こそ雪の女王だったのです。

「ずいぶん遠くまで来たのよ。」
と雪の女王は言いました。
「あら、震えているのね。わたしの毛皮の中にお入り。」
ゾロはまるで雪の吹きだまりに入ったような気がしました。
「まだ震えているの?」
雪の女王は尋ねました。そしてゾロの額にキスしました。
その冷たいこと!氷よりももっと冷たくて氷の塊になりかかっていたゾロの心臓に直に染みとおりました。
しかし、すぐに、寒さも気にならなくなりました。
雪の女王はゾロにもう一度キスしました。
すると、ゾロはルフィのこともみんな忘れてしまいました。
ゾロは雪の女王をじっと眺めました。
雪の女王はそれは美しくてこれ以上美しい顔は考えられませんでした。
いつか、窓の外から手招きしたときのような氷のような冷たさは感じられませんでした。
そこで、女王に自分の知っているありとあらゆる知識の話をしました。
女王は始終、にこにこしていました。
けれどもゾロは自分の知っていることはまだまだ十分でないような気がしました。
そして、広い広い大空を見上げました。
雪の女王はゾロを連れて、黒い雲の上を高く高く飛んで行きました。
2人は森や湖や海や陸を越えて飛んで行きました。
遥か下のほうでは冷たい風がビュービューと吹いてオオカミがほえていました。
雪がきらきら光っています。
一方、遥か上のほうには月が大きく明るく輝いていました。
その月をゾロは長い長い冬の夜中眺めていました。
そして、昼の間は雪の女王の足元で眠っていたのです。





まだまだ続きます・・・。

1の冒頭にも書きましたように、パロディで『雪の女王』を参考にさせていただいてます。(純粋なファンの方、怒らないでくださいね(汗))
ゾロ〜!ルフィになんて事を・・これじゃ、イタズラする近所の兄ちゃんそのまんま(泣)。

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