雪の女王



3.

さて、ゾロがいなくなってから小さなルフィはどうしたでしょう?
いったいゾロはどこへ行ってしまったのでしょう・・・知っている人は誰もいませんでした。
男の子たちの話では、ゾロが自分の橇を大きな立派な橇に結び付けて、通りを走りぬけて、そのまま街の門から出て行くのを見たというだけです。
それで人々はゾロは死んでしまったのだ、街のすぐそばを流れている川に落ちて溺れてしまったんだと言いました。
みんなは涙を流し、ルフィも深い悲しみに沈んでいつまでも泣いていました。
暗い冬の日はずっと続くかと思われました。それでもとうとう、暖かいお日様の輝く春になりました。

「ゾロは死んで、どこかへ行ってしまったんだ。」
とルフィは言いました。
「わたしは、そうは思わないよ。」
と、お日様は言いました。
「ゾロは死んで、どこかへ行ってしまったんだ。」
とルフィはツバメに言いました。
「僕はそう思いませんよ。」
とツバメは答えました。
こうして、しまいにルフィもそうは思わなくなりました。


**********

ある朝ルフィはお気に入りの麦藁帽子をかぶりました。
そしてたった一人で街の門を出て川へ行きました。
「お前が、おれの友達を取ってしまったのは本当か?もし、ゾロを返してくれるならこの麦藁帽子をやる。」
すると、不思議なことになんだか川の波がうなずいたような気がしました。
そこで、一番の宝物にしていた麦藁帽子を川へ投げました。
ところが、岸のすぐそばに投げたものですから、小さい波がすぐにまたそれをルフィのところに押し返してきました。
ルフィは投げた場所が近すぎたのだと思いました。
そこで、葦の中に浮かんでいるボートに乗って投げました。
ところがそのボートはしっかりつないでなかったものですから、ルフィが身体を動かしたとたん、するすると岸を離れました。
それに気づいたルフィは急いで岸に上がろうとしましたが、端に行かないうちにもうボートは5フィートも岸から離れていました。
そしてそのままだんだん速く滑り出しました。

ルフィはびっくりして途方にくれました。
なぜってルフィは泳げなかったのです。
ボートは流れのままに川をくだっていきました。
ルフィはしかたなくボートの底にじっと座っていました。
麦藁帽子は後から流れてきました。
「もしかしたらこの川がゾロのところに、おれを連れていってくれるのかもしれない。」
根拠なんてありません。
でもルフィはそう思い、そう思ったら気も晴れ晴れとなりました。

**********

川は次第にその横幅を増し、風には塩の匂いが混じってきました。
入り江に近づいてきたのです。
やがて、大きな桜の園にさしかかりました。
園の外には大層大きな、魚を模したような船が繋がれていました。
それは、レストランなのでした。
ルフィは看板を読みました・・・「レストラン・バラティエ」、そう書いてあります。

見ると、金髪の青年が船体をぐるりと囲む柵にもたれて、煙草をふかしています。
そのうちに流れがボートを岸に近づけてくれたのですぐその側まで来ました。
ルフィは大きな声で叫びました。
青年はびっくりしてこちらを見ましたが、ルフィの様子を見ると、急いで煙草を揉み消し降りて来てくれました。
そして立てかけてあった長い櫂でボートと麦藁帽子を船まで引き寄せてくれました。
ルフィはやっと岸に上がることができましたので、この青年に感謝してありがとうと言いました。
すると、青年は青い目でまじまじとルフィを見ていましたが、やがてふて腐れるようにため息をつきました。

「・・・よく見りゃ男じゃねえか・・男なんぞ助けちまうとは・・・。」
青年はぶつぶつとつぶやいていましたが、ルフィがにこにこと笑いながらお礼を言うのを見て気を取り直したように尋ねました。
「で、お前はどこのだれでどうしてここまで来たんだ?」
そこで、ルフィは何もかも話しました。

「一文無しで川くだりかよ・・・勇気あるぜ。」
途中で立ったまま長話もつらいだろうと、金髪の青年はルフィを連れて船に戻りました。
長い間川を下ってきたせいでお腹がすいたルフィがそう訴えると、
「まず、食え」とルフィを厨房に案内してくれました。

テーブルの上にはそれはおいしそうな料理が並んでいました。
ちょうど、新作をこしらえたばかりだというのでルフィは喜んでお相伴にあずかることにしました。
こうして食べている間にルフィの話が終わると今度は青年がここのレストランの話をしてくれました。

「ここはバラティエってレストランだ。オーナーは変わり者のジジイでね。おれは副料理長のサンジだ。」
「変わり者で悪かったな。」
不意に聞こえてきた声に振り向くと、背の高いコック帽をかぶった男が1人立っていました。
よく見ればその脚は片方が義足になっていました。
「げっ!クソジジイ・・!いたのか。」
サンジは「しまった」と顔をしかめましたが、義足の男は頓着せずに2人の座っているテーブルまで歩いてきますと、ルフィを指し、
「で、こいつはどうしたんだ?」
と尋ねました。
サンジからルフィがゾロを探して川を下ってきた、と聞きますとやや、呆れた顔をしましたが黙って最後まで話を聞いてくれました。

ルフィはゾロがここを通らなかったかと尋ねました。
「いや、見てねえな。」
という返事でした。
他のどのコックに聞いても、誰もゾロの姿を見たものはありませんでした。

さすがにがっかりするルフィを見て、かわいそうに思ったサンジはこう持ちかけました。

「ちょうど、人手が足りないんだ。お前、ちょっとの間だけこの店手伝ってみるか?」
もしかしたら、ゾロって奴もそのうち、通りかかるかもしれない、働いた分の給料も出す、という言葉にルフィはうなずきました。
そんなサンジの様子をオーナーはかなり驚いた様子で眺めていましたが、やがて
「ま、いいだろう。」
と言って厨房を出て行きました。

意外とレストランでの仕事も生活も楽しいものでした。
サンジはまるでルフィが弟のように面倒を見てくれました。
ひまを見ては簡単な料理の基礎を教えてくれることもありました。
元来、真面目な質なサンジのこと、料理の指導にも熱が入ります。
「いや、違う!そうじゃなくてもっと手首を返して・・・」
「こうか?」
「おお!・・・なかなか上手く出来たじゃねえか!」
おかげでルフィの料理の腕前はかなり上達しました。
料理の見栄えこそ、まだまだでしたが、食べることが好きなだけあって味覚も正常、その上に素直だったのが幸いしたのでしょう。
しかし、それで気を抜くといつのまにかこっそりつまみ食いをするので厨房ではみな、気が抜けません。
一見怖く見えるオーナーも(ゼフという名前は後でサンジから聞きました。)、
そして、時々新作だと言っては料理の味見をさせてくれたり、余ったからとデザートの甘いお菓子をルフィのためにとっておいたりしてくれるのでした。
もう少しの間、もう少しの間だけ、と思ううちになぜか、次第にゾロのことがおぼろげになっていってしまったのです。

実はこのレストランにはオーナーの魔法がかかっていたのです。
といっても悪い魔法ではなく、ここに来たお客さんが楽しくて何度でも来たくなるような、離れがたく思うようなそんな魔法でした。
そのせいでルフィはゾロのことを少しずつ忘れていってしまったのです。
サンジもオーナーもそれにやがて気づきました。
それでも、この黒い髪、黒い目の子供がウェイターとして、弾むような足取りでテーブルを回り、お日様のような笑顔をみんなにむけてくれるのを見ると、いつまでもここにいてほしい、と思ってしまい言い出せないのでした。

ある日のこと。 店内の掃除が終わったルフィは、バラの花を数十本渡され、テーブルに生けてくるよう言われました。
「これをテーブルの一輪挿しに一本ずつ、生けてくるんだぞ。」
「おお、わかった。・・・すっごくきれいな花だな!」
パティにそう言われたルフィはさっそく作業にかかりました。
色とりどりなバラの花からは甘い甘い香気が漂いました。
楽しそうにバラの花を生けていくルフィの姿に、パティはいかついその相好をくずすと、じゃ、頼んだぞ、と厨房へ戻っていきました。
ルフィは鼻歌を歌いながら生けていきましたが、ふと心をかすめた考えに手を止めました。

バラの花。
前にバラの花をいじった時、自分だけでなく、もう一人、いつもバラの花の側に誰かいた気がします。
頭を振って思い出そうとしました。
バラの花。
夏の日。
そして・・・ゾロ。
バラの香気はルフィに忘れていたことをくっきりと思い出させました。

「おれ、どうして今までこんな大事なことを忘れてたんだ!」
ルフィはバラの花を取り落としました。
そしてルフィは裸足に近いゴム草履のまま、麦藁帽子だけつかんで店から広い世界へ飛び出しました。
ふと、あたりを見回しますと、いつのまにか夏はとうに過ぎて秋も大分深まっていました。
バラティエにいたのでは気づくはずがありませんでした。
あそこではいつも明るくてにぎやかでしたから。

「・・・行くのか?」
上から降ってきた声に見上げると、そこにはサンジが出会ったときと同じように煙草をふかしていました。
「ああ。すっかりお世話になっちゃって道草くったけど。おれ、ゾロをさがなさなきゃ。」
そう、ルフィが答えますと、サンジは、ぽん、と小さな袋をルフィに放り投げました。
袋をあけるとそこにはお金と食料が入っていました。

「・・・餞別、と給料。ゾロってやつを見つけたらまた、ここに立ち寄んな。」
「ありがとう!じゃ、もうおれ、行くな。」
一度だけ、ルフィは振り返るとぺこりとお辞儀をし、それから走り出しました。
「・・・・」
その後ろ姿にサンジは何か言いかけようとしましたが、止めてかわりに煙草の煙をふーっと吐き出しました。

「あーあ。結局、見たこともないゾロってやつに負けちまったか。・・・そこにいるんだろ?ジジイ?」
おれほどの男を振るなんて、と冗談めかして続けたサンジの後ろからゼフが現れました。
「・・・いいのか?行かせちまって?・・お前にしちゃ大分気に入ってたみたいなのに。」
ゼフは、そうサンジに聞きました。
「人のもんを盗るほど、おれは不自由してねえよ。」
サンジはにやりと、見えている片目と唇の端だけで笑いながら答えました。
「・・・フン。」
オーナーはそれ以上尋ねることはせず、悟ったように笑いました。
2人はルフィの小さな後ろ姿が見えなくなるまで見送っていました。





ごめん、サンジさん。こんな設定で・・・。

果たしてこれはパロディなんだろうか?(サンジさんファンの方、原作ファンの方、怒らないでくださいね(汗))
イマイチ、メルヘンになりません・・・ちょっとこの辺で打ち切ったほうがいいという天の声が聞こえてきそうです。
ところで、次の王子様役はいったい誰にしたら・・ウソップがいいか、コーザくんがいいか・・・。(自分で決めろよ・・・ちーちゃん。)

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