雪の女王



4.

ルフィはとうとう、これ以上続けて走ることができなくなって大きな石の上に腰を下ろしました。
街を出たときからずっとはいているゴム草履のせいでルフィの足は傷つき、疲れ果てました。
すると、ルフィが腰を下ろしたちょうど向こうの雪の上を大きなカルガモがとことこと駆けてきました。
帽子をかぶり、水筒を下げたそのカルガモを珍しく思ってルフィはしげしげと眺めました。
すると、カルガモも立ち止まってそのつぶらな目をぱちぱちさせて、ルフィの顔を見ていましたが、やがてそばに寄って来て、
「クエーッ!!(こんにちは)」
と鳴きました。
ルフィも思わずうれしくなってにっ!!と笑って、
「こんにちは!」
と言いました。
カルガモもルフィのことを好きになりましたので、こんな広い世の中を一人ぼっちでどこへ行くの?と尋ねました。
この一人ぼっち、という言葉はルフィにもよくわかってその中に含まれているいろいろなことをしみじみ感じました。
そこで、自分の名前、これまでの身の上をすっかり話して聞かせました。
すると、カルガモは、もっともらしくうなずいていいました。
「クエ、クエー。(あれかもしれない。)」
「ほんとか!?」
とルフィは思わず大きな声で言いました。
そしてカルガモを息が止まるほど、強く抱きしめました。
「グエ・・・(落ち着いて)!」

不思議なことですが、小さいころからあの庭で鳥の言葉を聞いて育ったルフィには鳥や動物の言葉が何となくわかるのでした。
普通の人が傍から見ると、ただ、巨大なカルガモが「クエー!」と鳴いて、ルフィがそれに答えている、というように映るかもしれません。
しかし、この1人と1羽はちゃんと会話してお互いの言うことを理解しているのでした。
カルガモの話はこうでした。(もちろん、ルフィにはわかる言葉でのお話です)
「落ち着いて!」
と危うくしめられる所だった、カルガモは言いました。
「そのゾロってやつに心当たりがあるよ。でも、今では王女様のことで頭がいっぱいで、ルフィのことは忘れてしまっているらしい。」
「ゾロが王女様のところにいるのか?」
とルフィは尋ねました。
「そう。まあ、聞いて。」
こう言ってカルガモは知っていることを話し始めました。


**********

「いま、僕たちのいるこの国に一人の王女様がおいでです。たいへん利口な方でね。
ついこの間、王女様は王座におつきになったんだけれど、ただそれだけじゃ、ちっとも面白くないんだって。
いつもたった一人でお寂しそうだったし。お一人で国を治める危険性も知っていましたからね。
そこで、王女様は結婚なさろうと思ったんです。
しかし、お婿さんになる人は話しかけられたらすぐ答えられる人でなくてはいけないんです。
そこで、王女様はお城の人たちを呼んで心持ちを伝えました。
みんな大層喜んで、それは結構なことだ、と言いました。・・・・僕の言うことは本当なんですよ。」
とカルガモは言いました。

「実は僕は王女様に飼われているカルガモなんです。王女様やお城の人たちは僕をカルーと呼びます。
だからお城の中だって自由に歩きまわれるし何もかも知ってるんです。
王女様はビビといってそれはそれはきれいな女の子なんです。」
カルーは続けました。
「そこで早速、そのお知らせを書いた新聞が出たんです。
それには、姿の立派な青年なら誰でもお城へ来て、ビビ様とお話することができる、そして、その話し振りが、窮屈でなく、しかも一番上手に出来た人を、王女様はお婿さんに選ぶとこう書いてあるんです。」
カルーは言いました。
「人々はぞろぞろやってきました。それは大変な混雑でした。ところが、最初の日もその次の日もうまくいったものは一人もいませんでした。
いったんお城に入って銀ずくめの兵隊を見たり、階段を上って金ぴかのお役人にであったり明るいきらきらした大広間に通されてしまうと、もうぼううっとなってしまうのでした。
いよいよビビの玉座の前に立つと、せいぜいビビの一番最後の言葉を繰りかえすのがせいいっぱい、でも、外に出るとまたぺらぺらおしゃべりができるようになる有り様でした。」
「で、ゾロは!?ゾロのことは!?」
とルフィは聞きました。
「いつ、来たんだ?その中にいたのか?!」
「ちょっと待って。・・・3日目、一人の少年が、元気いっぱい、お城を指して歩いてきました。
その目はルフィの目のように輝いていて、背も高かった。ただ、服はちょっとみすぼらしかった。」

「ゾロだ!」
とルフィはうれしそうに叫びました。
「ああ、とうとう見つかったんだ!」
「その少年は誰に会っても少しもびくびくしなかったんです。
それにその話ときたらおもしろくて、まるでウソさえ本当に思える、御伽噺でさえここまで本当に聞こえるのかと思えるような面白い話をするんです。
その物知りにはみんな、感心しました。」
「確かにゾロだ!ゾロはすっごく勇気があって堂々としてるんだ。それにいろんな国の事だって知ってるんだ!」
と、ルフィは言いました。
「で、ゾロは王女様と結婚したのか?」
「僕だってカルガモじゃなかったら王女様と結婚しますよ。
たとえ、僕が婚約していたとしても。
それくらい、ビビは美しくて、気立ても頭もいいんです。
少年は元気で可愛らしい人でした。
お城へ来たのも、決してビビに結婚を申し込むためではなくて、ただ、ビビが賢いというものだから、それを知りたいと思ってきたんです。
ところが、少年はビビが気に入り、ビビのほうでも少年が気に入ったというわけなんです。」
「そうだ、きっとゾロだ。ゾロはとっても頭がいいんだ。・・・なあ、おれをお城へ連れていって。」
とルフィは言いました。

すごいな、ゾロ!とルフィは誇らしげな気持ちでいっぱいになりました。
自分の幼馴染だったゾロが王子様になっているというのです。
・・・なのに、どうしてでしょう。
ルフィの胸はずきり、と痛んだのです。
ガラスのかけらが入ったわけでもないのに、何かよくない気持ちが込み上げてくるのです。

「さてと、どうしましょう。一般の人はお城へは入れてはいけないことになってるし。」
とカルーは言いました。
「いや、それなら大丈夫だ。」
とルフィは答えました。
「ゾロはおれが来たことを聞けばすぐに出て来てくれると思うから。」
「・・・お城の中に入ることはとても出来ないと思うよ。
ルフィはその通り裸足に近いし。銀ずくめの兵士や金ぴかのお役人がきっと許してくれないでしょう。
でも、泣かないで。どうにかして連れていってあげるから。
実は、僕は寝室へ上がる狭い裏ばしごを知ってるし、鍵の場所もちゃんと知ってるんだから。」
ルフィの胸は心配と憧れで高鳴りました。
ただ、ルフィはその人がゾロかどうか知りたかっただけなのです。
そう、それはきっとゾロに違いありません。
ルフィはゾロの、碧の目と碧の髪と、自分よりも頭半分大きな姿を思い浮かべました。
もう、最後にゾロを見てからどれくらいたったのでしょう。
ただ、会いたくて、会いたくて、こんなにゾロを恋しく思ったことはありませんでした。
また、自分達がバラの花の下に座っていたときのように、にこにこしているゾロの姿がはっきり目に見えるようでした。
ゾロがルフィを見て、どんなに遠い道を自分のために歩いてきたかを聞いたら、また自分が家に帰らないので、どんなにみんなが悲しんでるかを聞いたら、きっと喜んでくれるでしょう。
ルフィには予感がありました。
それに、ゾロに会ったら逃げないで絶対に言おうと思っている言葉がありました。
そう思うと心配でもあり、うれしくもありました。

やがて、1羽と1人ははしご段の上に来ました。
小さいランプが、棚の上に灯っていました。
カルーは言いました。
「さ、そのランプを持って。
案内しましょう、ここをまっすぐ行くと誰にも会いませんから。」

広間は一つ通りぬけるごとに立派になっていきます。
ルフィは目を丸くするばかりでした。
こうして、いよいよルフィとカルーは寝室に来ました。
寝室の天井は葉をいっぱいに広げた大きな棕櫚の樹にかたどってありました。
その葉は上質なガラスで出来ていました。
そして、床の真ん中に立っている一本の太い黄金の幹に、ユリの花のようなベッドが2つ吊るしてありました。
その一つは真っ白で、それには水色の長い髪をした、きれいな女の子が眠っていました。
ビビ王女です。
もう1つは赤くて、その中に、ルフィの探していたゾロが寝ているはずです。
ルフィは赤い花びらの一つをそっと傍へ寄せてみました。
日にやけた首筋が見えました。
・・・・ゾロでした。
「ゾロ!」






カルーの言葉づかいがわかりません・・・。

だから、何か妙になってしまいました・・・。説明ばっかしだし。
次号、王子様(笑)登場。
なお、繰り返しますが、これは大畑氏の訳を一部、参考&お借りしているお話です。決して『雪の女王』がこんなお話ではありません。原作読んで怒らないでくださいね(汗)。

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