雪の女王



7.

ルフィを乗せたチョッパーは、とある家の前で止まりました。
その家は雪の多い地方特有の、急角度の屋根を持つ家でした。
家の中には、30代も半ばだろうという、きびきびした所作と体格がまるで兵士のような男が一人いるだけで他には誰もいませんでした。
チョッパーは、ドルトン、と名乗ったその男に、ルフィのこと、自分のことをすっかり話して聞かせました。
なにしろ、ルフィは寒さのためにひどく疲れていて、口もろくにきくことができなかったからです。

「それは、気の毒に。」
とドルトンは言いました。
「それだと、君たちは、まだまだ走らなければならない。
ここから100マイル以上も北の、フィンマルケンという所まで行かないと。
雪の女王は今、そこにいて、長い長い夜ごとに、青い火を燃やしているのだから。
ちょっと手紙を書いてあげるから、それを持って私の知り合いの、フィン人の女性のところに行くといい。」
こう言って、ドルトンは手紙を書き始めました。
そして書きながら付け加えました。
「その、女性のほうが私よりも、くわしいことを教えてくれるだろう。
ドクトリーヌと呼ばれている医者でね、たいそう博学な女性だ。・・・あとは、そうだな、ちょっとくせがあるが。」

ルフィとチョッパーが火に暖まって、食べたり飲んだりしている間にドルトンは手紙を書いて、ルフィに大切に持っていくようにと渡しました。
ルフィはお礼を言って、またチョッパーの背中に乗って出発しました。

走りつづける間、たとえようもなく美しい青いオーロラが、一晩中、空で燃えていました。
・・・こうして、とうとうフィンマルケンにやって来ました。
そして、教えてもらった、ドクトリーヌの家の扉をノックしました。

「ヒーッヒッヒッ。客かい。病気かい?それとも、若さの秘訣でも聞きにきたのかい?」
「・・・いや、聞いてないし。」
ルフィとチョッパーは、その女性の、かなり、高齢なはずなのにその言動がつりあわないのに度肝を抜かれましたが、ここに来た用件を話し、ドルトンからの手紙を渡しました。

ドクトリーヌは、一度読んでその手紙の内容をすべて覚えてしまうと、それを暖炉の中に放り込みました。
一応、僅かでも燃料にはなりますから、この女性はけっして物を粗末にしませんでした。

さて、チョッパーはルフィのこと、そして、自分のことを話しました。
ドクトリーヌは、興味深そうに目を瞬かせてルフィを見つめながら聞いていましたが、何とも言ってくれませんでした。

「ドクトリーヌは、すごく賢いって聞いてるぞ。」
とチョッパーは一生懸命言いました。
「おれ、ちゃんと聞いてきたから知ってるぞ。どんな病気もあっという間に治すってことも、どんな薬だって作れるってことも聞いてきた。
だから、どうかルフィに、すっごく強くなれて、雪の女王にも勝てるような薬を作ってあげてくれないか?」

「ヒーッヒッヒッ。そんな便利な薬があるかい。あったらあたしが欲しいね。」
そう言って何やら難しげな薬品のぎっしり並んだ棚の整理に戻ってしまいました。

チョッパーはもう一度、ルフィのために熱心に頼みました。
ルフィも目に涙をいっぱいためて、心からお願いをするように、じっとドクトリーヌを見つめました。

「・・・・・」
ドクトリーヌは、ふう、とため息をつきました。
そしてチョッパーをすみっこに連れて行ってこう囁きました。

「そのゾロって子はね、確かに雪の女王のところにいるよ。
連れてきたのを見たし、女王はそういうことを隠さず、話すからね。
だけどね、今は何もかも、自分の思い通りになっているものだからすっかり気に入ってしまって、世界中でこんないい所はないと思っているんだよ。
それというのもみんなガラスのかけらが、その子の心臓に突き刺さっていて、小さいガラスの粒が目の中に入っているためなんだよ。
まずそれを取り出さなければいけない。
でないとその子は、二度と本当の人間になれないし、いつまでも雪の女王のいいなりになっていなければならないんだよ。」

「じゃあ、そういったものに、みんな打ち勝つだけのものをルフィにあげてくれないか?」
チョッパーは真剣な目で頼みました。
それをドクトリーヌはじっと見つめ、静かに首を振りました。

「あたしはね、ルフィが今持っているよりも、大きな力をやることはできないよ。
ルフィの力がどんなに大きいか、お前にはわからないのかい?
どんな人間でも動物でも、あの子のためには、どうしても助けになってやりたくなるじゃないか。
だからこそ、はだしでこんな世界の果てまでこられたんじゃないか。
それがお前にわからないのかい?」

「・・・どうして、そのことをルフィに直接教えてあげないんだ?ルフィはゾロがどうして変わったのかも、知らないんだぞ!?」
チョッパーは涙を浮かべながらその言葉を聞いていましたが、そう聞かずにはおれませんでした。
「・・・わかってないねえ。」
ドクトリーヌはそう呟いて続けました。

「ルフィはゾロがどんなに変わっても信じて、ここまで探しに来たんだよ。
それが答えさ。
それに、あの子の力はあたし達なんかから教わるに及ばないんだよ。
その力はあの子の心の中にあるんだもの。
つまり、あの子のやさしくて強い、罪のない心が、力なんだよ。
もし、あの子が雪の女王の所へ行って、ゾロの身体の中からガラスのかけらを取り出すことができないようだったら、あたし達ではどうにもならないことさ。
ここから2マイルばかり行くとね、雪の女王の庭の外れに出るからそこまであの子を運んでいきな。
赤い実のなっている大きな茂みがあるから、その側にルフィをおろすんだよ。
そうしたら、無駄口をたたいてないで急いで戻ってくるんだよ!」

チョッパーは力の限り走りました。

「あ!おれ、コートも手袋も置いてきちまった!」
と、ようやく身を切るような寒さに気づいたルフィが叫びましたがチョッパーはもう、止まってくれません。
どんどん走りに走って、とうとう赤い実のなっている大きな茂みのところまで来ました。
そこでルフィを降ろして、チョッパーは人型になると、ルフィにぎゅっと抱きつきました。
きらきら光る大粒の涙がその頬を流れました。
それから、トナカイは今来た道を大急ぎで走っていってしまいました。
かわいそうにルフィは家を出たままの、袖なしの赤い上着とジーンズ、それにゴム草履という格好で氷に閉ざされた寒い寒いフィンマルケンに取り残されてしまったのです。
ルフィは出来るだけ元気を出して駆け出しました。
空はすっかり晴れてオーロラがきらきら光っていました。


**********

すると、そこへ雪の軍勢がどっと押し寄せてきました。
それは、雪の上をまっすぐにルフィめがけて走ってきて、近づけば近づくほど大きくなっていくのでした。
ルフィは、いつかゾロがレンズで雪を見せてくれた時、どんなに大きく、美しい形をしていたのか、今でもはっきりと覚えていました。
けれども、ここの雪はみな、それよりも大きく、気味悪い形をしていました。
それは、悪意で出来た雪なのでした。
美しい雪でも、女王の悪意によって、生きている恐ろしい軍勢に変えられてしまっていたのです。
醜い大きなヤマアラシのようなものもいれば、ヘビがとぐろをまいて鎌首をもたげているようなものもあります。

その時、ルフィは「主の祈り」を唱えました。
その祈りの言葉は白い白い息となって口から出ました。
そうして、だんだんと濃くなっていって、小さな輝く天使の姿になりました。
頭に兜をかぶり、手に槍と盾を持った天使たちは地面にふれるたびに大きくなりました。
天使の数は次第に増えて、ルフィがお祈りを唱え終わった時には、天使の軍勢がルフィの周囲を守護するようにとりまいていました。
そうして、天使たちは槍をふるって、雪の軍勢を打ち負かしましたので、雪の軍勢はちりぢりになって飛び散ってしまいました。
「さあ、もう少しですよ。頑張って、ルフィ。」
天使たちはルフィの手や足をさすって励ましてくれましたので、ルフィは前ほど寒くなくなりました。
そうして、ルフィはまた、元気に、雪の女王のお城を指して歩き出しました。





そう、このシーンが書きたくってこのパロディを書き始めたんです!(ドクトリーヌとチョッパーの会話、とルフィの祈りで天使の軍勢が現れるところ。)

もちろん、文章力足りなくて、上手く書けてないのは承知ですし、原作のルフィは、神様の存在なんて、信じてないんだろうなー、てタイプだとは思います。
でも、今回のルフィは非力ではありますが、本当は誰よりも内なる力を秘めているんだ、ってのがテーマでもあって。いや、っていうより、そういうルフィが書きたかった!(きっぱり)
ちなみに、ちーちゃんは、幼少時に日曜学校へ行き(クリスマスが目当てだった)、学校もミッション系に3年通ったおかげで、「主の祈り」は暗記できました。後、少しだけは聖書も知ってますが、そんな詳しくはありません、何か間違っていたらごめんなさい。
いやー、10代のうちに身につけた知識って一生の宝ですねえ・・・しかし、他のどーでもいい知識もあったりして・・・。

8.へ